◇ 短 歌 ◇
    「お彼岸の地震」
福岡市東区 村上 静子
  木漏れ日に身をゆだねいて一抹の
     幸感じおり呼吸苦のなか
  落ちてゆくその瞬間まで燃ゆる赤
      この寒椿にまた魅かれ来る
  寒椿落ちて尚燃ゆ山路を
      後ろ手で独り歩いてゆかむ
  愚痴一つ云わない母を想いだす
       吾が子に残せる言葉を捜す夜
  踏まれいるタンポポの土を撫でてやる
       我が身にも似て愛ほしくなり
  聴診器にアトムや鈴をぶらさげて
       障害児を診る医師のやさしさ
  室温湿度保ちて昼夜看取りいる
    器械呼吸の児と母の愛
  予期しない強度の地震に戸惑いて
      痴呆の如く落ち着かずいる
  お彼岸の中日の地震とは不吉だと
      友は長なーがと説法をする
  地震後は通話も出来ず一夜明け
       次々と電話の励ましに泣ける
     「春 暁」 
糸島郡二丈町 楢崎 恒基
春暁のうす雲紅く映り染む筑紫の里は靄に沈めり
雪に照る吾妻小富士に浮雲の流れかかりて春は近しも
春早き玄界島に地震狂ふ暖流近く豊かなりしに
地の神の狂へる故か春遠し余震の地面に霰降り来る
震災を街に逃れし島人の方言は親し糸島訛り
漁師ゆえ玄界島に共同の住居欲しとふ組合長ら
ときめくや「おさん茂兵衛丹波歌暦」
   オペラの舞台を観しと
薔薇咲けるオペラホールに西鶴の
      哀れ道行き「おさん茂兵衛」
斎場に友と会い居り「今日一日在るが全て」と語り黙しぬ
昼暗く春雨しぶき出棺の友の遺影は抱かれ濡れ行く
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