◇ パルスオキシメーター情報 ◇
 「パルスオキシメーターの
     日常における利用について」
(要約) 
長岡赤十字病院 呼吸器科部長 佐藤和弘先生
1999年1月「ホット46号」に新潟「はまなす会」の会報51号から転載の「新潟県低肺機能者の会第14回定期総会記念医療講演」を要約して、ご紹介いたします。
長岡赤十字病院は、「新潟中越地震」で奇跡的に助かった「優太ちゃん」を治療した病院として皆様記憶に新しいと存じますが、その病院の佐藤和弘先生のご講演です。最近、パルスオキシメーターが急速に普及して来ましたので、自宅でお使いの方も多いかと思います。具体的な例で判りやすい内容ですので、この機会に、パルスオキシメーターの特徴をよく理解して、上手に使って頂きたいと思います。

 ◇ 目  次 ◇
1.パルスオキシメーターで何を測っているか
2.利点と、弱点
3.測定上の注意
4.応用(その1)・・早めに悪化を知るヒントに!
「普段の自分の状態の値を知っておく」
「状態が悪くなっていることに早く気付く」
「具体的な症状の事例について」
5.応用(その2)・・動くときの目安に!
6.まとめ 
※ パルスオキシメーター関連情報 (2013年5月)

1. パルスオキシメーターで何を測っているか
動脈の血液というのは酸素を沢山含んでいるため赤い色をしています。これを利用して、爪の毛細血管に二種類の赤い光線を当て、その光線の吸収具合で、酸素が多いか少ないかを判定するというのがパルスオキシメーターです。
血液の中にヘモグロビンという酸素を運ぶ蛋白があり、それに酸素が沢山ついている程赤くなり、酸素が少なければ少ない程赤くない。その原則を応用して、パルスオキシメーターは、血液を採らないで爪に光線を当てて、血液に含まれる酸素の度合い(%)を見るということを認識していただきたいと思います。
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2. パルスオキシメーターの利点と、弱点
[利点]
☆簡単にどこででも測れる
動脈の血液ガス分析は自分ではやれませんが、パルスオキシメーターなら自分で簡単に何処ででも測れますから、強い息切れとかチアノーゼなどになる前に、具合が悪くなりつつあることを早く知る、それが一番の利点です。
☆酸素吸入量、運動量を決める目安
肺活量の低い患者さんは動く際にかなり酸素飽和度が低下して、安全圏に届かないといわれています。例えば酸素1リットルで安静時に酸素飽和度が96%という方、特に肺線維症ですと、ちょっと動くとまたたく間に80%ぐらいまで下がります。そういう場合、どの位の酸素を吸えばいいか、あるいは自分はどの位の運動が無難で妥当かということを、パルスオキシメーターで知ることが出来ます。
☆動脈血ガス分析酸素分圧(トール)とほぼ相対している
最近のパルスオキシメーターは非常に性能がいいですから、動脈血を採って酸素飽和度で対比させてみても殆ど変わらず、実際の管理には殆ど問題はありません。ですからパルスオキシメーターの値を安心して信頼していいと言えます。
[弱点]
炭酸ガスを測ることが出来ない
「炭酸ガスが高いですね。」或いは「血液が酸性に傾いているから注意して下さい。」といわれた方がいらっしゃると思いますが、炭酸ガスが高くなると頭痛がしたり、意識がなくなったり、集中力を欠いたりして具合が悪くなります。特に、肺気腫(COPD)の方とか、結核後遺症で肺活量が非常に少ない方とかは、極端なことをいうと、酸素飽和度が99%であっても炭酸ガスが通常の2倍くらいあって、意識がないということがあり得るわけです。パルスオキシメーターでは炭酸ガスを測ることが出来ませんので、自覚症状と対比させる必要があります。
誤作動でないかを、脈拍数で確認
冬場、指が冷たい時には指先の毛細血管の血の流れがかなり低下していることがあります。パルスオキシメーターはセンサーが光線を当てて測っているものですから、誤作動を起こして、正確な表示をしないことがあります。ですから冬場は手を少し暖めてから測るという配慮が必要かと思います。
正しく測れているかどうかは、パルスオキシメーターで出てくる脈柏数がちゃんと表示されているか、或いは音の出るパルスオキシメーターでしたら、自分の心臓の動くリズムと合っているかどうかをよくみていただきたい。これは落し穴でして、誤った表示に惑わされてしまうと大変なことになります。
もう一つは、正しく着けて測ること。実際に器械を見ていただきたいのですが、逆さに着けていたり、斜めに付けてしまったり、ということがよくあります。ですからちゃんと指にはめて、マークを確かめて、正しく着けることが大事です。
★安定している時の酸素飽和度と自覚症状とを対比させる
患者さんの立場に立ってみれば、酸素飽和度が高ければ高い程、自分の体が良くなったように思いますが、実はそうではないのです。個々の患者さんによって一番安定している時の酸素飽和度というのがあり、例えば私が安静にして酸素飽和度を測ると、大体97%位です。99%とか100%になる必要はないわけです。
普段の安静時の数字を自分でよく把握しておく必要があります。例えばそれから1%、2%下がったからといって、すぐ自分は具合が悪くなったと考えないで、あくまでも症状との対比だということを頭に入れていただきたいと思います。
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3. パルスオキシメーターの測定上の注意
1) 指先は暖かくする。
2) 手が震える方はテーブルの上に手をつけて、激しく動かさずに測る。
3) 黒とか濃い青系統のマニキュアをしてパルスオキシメーターで測ると、光線を遮り誤作動を起こすので、マニキュアを落としてから測る。
4) 外出から帰ってきてその直後に測るのと、10分位休んで測るのとでは、条件が当然違うわけです。大体同じ条件で測るということが大事です。
5) 1分ぐらいかけて測ること。爪の印を確認して着けることが大切です。
6) 脈拍数がちゃんと表示されていなければ、正しく測定されていないという証になりますので、注意していただきたいと思います。
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4. パルスオキシメーターの応用(その1)・・
                 
早めに悪化を知るヒントに!
パルスオキシメーターの数字を日常の生活においてどのように使い、自分の治療に生かしていけばよいかの具体例です。
「普段の自分の状態の値を知っておく」
在宅酸素療法をするに至った病気は個人個人違うのです。肺結核後遺症もありますし、肺線維症の方、肺気腫(COPD)の方、いろいろいらっしゃると思います。各々自分が一番安定していて酸素を吸っている時の酸素飽和度は違うわけです。ですから普段の自分の状態を把握すること、例えば病院に行った時に普段安定している時の酸素飽和度は何%だったということを日誌につけて、或いはメモにつけてどの位の幅を持っているかということを自分でつかむということが大事だと思います。そういった幅が分かると、例えば急に5%落ちた、或いは具合が悪いということが直ぐ分かる。それが大事なのです。

「状態が悪くなっていることに早く気付く」
呼吸不全が悪くなるとふつう自覚症状が出てきます。息切れが回復するまでに今までよりかなり時間がかかる、何となく咳や痰が多く出るという時に、臨時にチェックするということです。値に変化があった時は必ず、自覚症状と対比していただきたいと思います。しかし、病気によっては、息切れとか自覚症状が余り出ない方がいるのです。そういう場合は特にパルスオキシメーターを使ってチェックすることが大事だと思います。
気管支拡張症がひどくて酸素を吸うようになった患者さんに多いのですが、気管支拡張症は酸欠状態になっても、余り息切れがないというのです。事実、病院でそういう患者さんをみておりますが、例えば肺気腫(COPD)の患者さんですと、酸素飽和度が93%あっても、こうも息切れがするのかというくらいに酸素不足だけでは説明がつかない事例があるといわれていますが、逆に気管支拡張症は痰が沢山出るのですが、酸素飽和度が85%であってもへっちゃらなのです。唇が紫色になって爪の色が黒くなっても平気で歩いている患者さんがいるのです。
肺線維症というのは基本的にはゆっくりゆっくり進んでいく病気です。具合が悪くなってくる時は、咳が出るとか息切れがひどいという自覚症状が出てくるわけですが、中にはいくら酸素が減っていても自覚症状がない、何か変だなと思う方もいらっしゃるのです。ですから例えば肺線維症の患者さんが、酸素を3リットル程で普段93%だとしても、何となく変だと思い測ったら酸素飽和度が75%しかないが、余り自覚症状がないという場合ですが、これも直ぐお医者さんに相談していただきたいと思います。自覚症状がない場合でも酸素飽和度が急激に下がっていますね、しかも繰り返し極端に下がった場合は、早く受診してほしいと思います。
肺気腫(COPD)の患者さんで酸素を1リットル吸っていて、安静の時も1リットル吸っているとします。安静の時の酸素飽和度が93〜95%だったのですが、最近少し息切れが強いし、トイレに行く時もかなり息切れが強く、そういう時は酸素を2リットルにしているけれども、どうもおかしいということでした。そういう時の酸素飽和度が88%で、安静にして2リットル吸っていても87〜88%というレベルというわけで、これは酸素欠乏である。だから肺気腫による呼吸不全が悪くなっているというように解釈します。肺気腫による呼吸不全が悪くなるのは大体感染で、風邪をひいたり心不全があるためで、こういう時には直ぐお医者さんに相談していただきたいと思います。
逆にこういう場合は心配いらないとみています。例えば、肺結核後遺症の患者さんの場合、酸素を0.5リットル吸っていて酸素飽和度が普段は96%で安定していたのですが、ある時お医者さんに測って貰ったら93%だったが、息切れもないし、足のムクミもないし、熱もないし、咳も痰も少ないという場合は心配いりません。
そういうように病気によって息切れとか、自覚症状に違いがあります。パルスオキシメーターを使ってチェックすることで、自覚症状が出ない呼吸不全も早めに注意する。そんなふうに、パルスオキシメーターを応用するということです。
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「具体的な症状の事例について」
<酸素欠乏>
これも言うまでもなく息切れが強くなる。具体的には歩いた後、息切れが非常に強くなったとか、200m位休まずに歩けたのが50m位しか歩けなくなった、トイレもままならない、お風呂にも長時問入っていられない、そういう形で出てくると思います。もう一つ、爪が紫色になるというのは相当悪い状態ですし、或いはイライラしてしかたがないというのも、注意することだと思います。
<炭酸ガスの蓄積症状>
酸素を0.5リットル吸っていた方が息苦しいので自分で1リットルに上げてしまったら、酸素飽和度が93〜95%にあがりました。そうしたら眠くて眠くて仕方がない。これは炭酸ガスの蓄積症状です。箸を掴むと手が震える、集中できない、テレビを見ていてついつい眠りこけてしまう、頭が痛い、特に朝起きた時にすごく頭が痛いというのは炭酸ガスの症状ですから、酸素飽和度がよく安定していても、炭酸ガスが出ている状態で、安心できないわけです。
特に炭酸ガスが蓄積しやすい病気は、大体肺気腫(COPD)の方です。結核後遺症でも肋膜が厚く癒着して、肺全体が板に包まれたようになる状態の人は、注意しなければなりません。酸素を増やせば増やすほど楽になりますが、炭酸ガスが増えることによって呼吸が浅くなってきますので、注意が必要です。
<心不全の症状>
呼吸状態が悪いので、肺性心、心臓に負担がかかっていますよと、お医者さんに言われた方があると思います。呼吸不全をお持ちの患者さん、動くと動悸がする、そして脈が飛ぶみたいだ、心臓が踊るみたいだという方がいらっしゃいます。また「最近、体重が2kg増えた」とおっしゃる方もいらっしゃいます。栄養を充分摂って体重が増えることは歓迎することです。気をつけないといけないのは、水太りです。心不全で足、顔などがムクんで体重が増えてくる。利尿剤を飲んで一日午前中に3〜4回お小水に行っていたのが、1回ぐらいしか行かなくなった。酸素飽和度が下がってくると、最初にこうした心不全が起こる場合があります。心不全というのは、初期であれば利尿剤や塩分制限で割に克服できます。これは早く見つけることが非常に大事です。
<感染>
風邪を引いて喉が痛い、痰も多い、今まで透明だった痰が黄色くなって汚い感じがしてきた、という場合は、気管支炎肺炎が疑われます。そういう症状のときにパルスオキシメーターで測ると、殆どの場合酸素飽和度が下がっています。
気管支拡張症の患者さんの例を申します。酸素を普段1リットル吸っていた方が風邪を引きました。最初は喉が痛かったけれど37度くらい熱が出て、咳と痰が大量に出るといった場合に、酸素飽和度を測ってみると普段93%くらいの方が80%くらいに落ちている場合があります。繰り返しになりますが、気管支拡張症の患者さんの場合、相当自分が悪くなるまで息切れが出ないということがありますので、その時はパルスオキシメーターで早く発見してほしいと思います。
しかし、ある患者さんから、余り酸素飽和度を、昨日は99%で今日は90%、その度にガッカリしたり喜んだりして、余りこだわり過ぎてかえって邪魔だ、と言われたことがあります。数値は幅をもって長い目でみて解釈することが大事だと思います。余り一回一回見て、自分は具合が悪いのだ、自分の肺の病気はどんどん進んでいるのだと考える必要はありません。
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5. パルスオキシメーターの応用(その2)・・
               動くときの目安に!
「労作時の数値の情報を診察時に伝える」
患者さんは日常生活の動作に合わせて、酸素を何リットルくらい吸えばいいかを知っておくことが必要です。その時に活躍するのがパルスオキシメーターです。
では、一般的に動く時は酸素飽和度が何%くらいあればいいかということになると、安全をいえば90%以上ですが、88%あればどうにか動く事ができます。しかしそれ以下になりますと、肺の血管が収縮して肺の高血圧症を起こし、心臓に負担がかかりますので、病院でもその辺を目安に患者さんの動く範囲を決めています。日常生活で労作時に計っていただいて、診察時に医師に数値を伝えることで、情報をフィードバックして頂き、それをもとに酸素量を決めるのが望ましいことです。一般的に動く時は炭酸ガスが余り高くなる心配はありません。
「動く限界は、88%までを目安に」
では酸素を沢山吸えばいくら動いてもいいのかということがあります。やはりたくさん動けば動くほど、吸えば吸うほど心臓に負担がかかりますし、自分の持っている体力というのもあります。自分の今までの状態でどの位まで動いていいのかという事を把握する事は大事な事だと思います。
一番簡単なのは自覚症状で、動いた後5分以内に息切れが楽になるのが目安です。酸素飽和度でいえば、やはり主治医の先生の処方通り吸って88%位までです。
脈拍数は、個人によってこの数字は大きく違うと思いますが、大体120を大きく超えると心臓にかなり負担がかかってくるようになりますので、120を超えないように動いて貰いたいと思います。
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6. まとめ
. 正しく着けて測る。指を冷たいままにして計らない。
炭酸ガスは、パルスオキシメーターでは分からない。
2. パルスオキシメーターを使う事によって、自分の普段の状態を把握しておく。
. 体調の変化に早く気付く。しかし、数値が悪いときも一人で悩むのではなく必ず自分の症状と対比してみて、何か測定条件に違いがあって酸素飽和度が下がったという場合は、それを考えに入れて測ること。
. 普段の日常生活の酸素の量について、或いは自分はどの位動いていいのかということを正しく把握するために、パルスオキシメーターを使いましょう。
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