◇ ほっと一息コーナー No.18 ◇
この《イロハ療養短歌》は「息苦しい療養生活の中で、短歌を作り始めて間がない頃《あいうえお療養短歌》に続いてその時々の在りの侭の気持を詠んだものです」との作者の言葉が添えてあります。
      《イロハ 療養短歌 》  鶴田義光
凍てつく夜荒き呼吸の熱き息眠れぬ枕辺温めんとす
老兵は常在戦場闘いに酸素カートを鎧のごとく
鼻マスク鼻腔の痒み耐えかねて耳掻き挿し入れ掻くは快感
ニンニクに人参煮干ニラもある滋養の糧に肉までも
歩行して息切れ始まり早けれど車の運転長々平気
ヘトヘトに苦悶の極み経験す日頃の息切れ軽しと我慢
歳だから慢性だからと治す意気弛緩すまいぞ病友諸兄
知識欲あれど記憶に修まらず本に淫する肺病みの日々
旅行する一泊行は過去の事日帰りさらに半日帰り
温もりを求めて彷徨う情念を弱気の虫と哂ってくれるな
涙腺が敏感になったと苦笑いテレビの愛の結末に涙
奥の手で治して下さい主治医様手品神の手手段選ばず
忘れ物一日三回以内でも守れぬままに月日は早し
看護師の優しかれと願いつつナースコールを思い切り押す
よく笑う良き日終わりて息切れも軽く過ぎたと再び微笑む
堪え難き気分の沈み午前中夕方頃の快復不思議
連続に咳き込み響く深夜部屋寝息気にして必死に宥めん
傍に在る物を取ってと頼むこと
怠惰じゃなけれど済まぬと詫びて
妻ヨシ子長子健太郎次男英二犬のハナ・マル家族は健康
年金が頼りの余生感謝あり政府の施策敏感になるも
亡き母の吾の肺病み知らぬこと親孝行のひとつと思ふ
来年も必ず観ると梅の園しぶとく余命確かめるごと
無為の日は呼吸ばかりを意識しつやがて就寝何故か焦りが
歌うこと肺活性に良薬と音痴かまわず声張り上げて
のびのびと手足を伸ばす入浴は出来得るときに愉しむように
老いらくの恋は甘くて切ないと眼を輝かせる友はカニューラ
首元が寒いとタオル巻きつけて家に籠もりて身なり構わず
痩せ身体食べれば強くなるものと永き過食に糖が反発
満開の観桜再び何時のこと車椅子降り花びらを踏む
健常者低肺経験なかりけり理解の垣根妻よ超えてと
復活はイエスズだけぞ凡人は慢性維持を軽くと願う
転ばぬが長生きの秘訣肺病みの早春の散歩脇目もふらず
越冬と南極にいるごと厚着して厳寒迎ふ覚悟固めり
点滴の落ちる速度で終わり知る自慢にならぬもの知りとなり
雨後の大気清冽深呼吸荒き呼吸を鎮めて縁側
酸素カート引く手の手袋派手模様発症あとお洒落傾向
気を元に戻して元気取り戻す謂れに歓喜至福を偲ぶ
夢遊び肺障害忘れおり海や野山の愉快満喫
メル友の励ましありて増悪と戦う吾は竜神と化す
未知の病手探りで過ごす日常は医師の指導を痛切に願う
執拗な息切れ続く辛きとき鬱が台頭躁が消沈
陽だまりの椅子に座りて療養の歌詠む平穏居眠り襲う
黙々とリハビリ体操軽くとも現状維持こそベスト選択
先輩の低肺患者助言あり医師の説明不足補う
スポーツマン強き筋肉比較して低肺機能と落差極まり
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