◇ 鶴田義光 《イロハ療養短歌》◇ |
|
|
この《イロハ療養短歌》は、息苦しい療養生活の中、短歌を作り始めて間がない頃の《あいうえお療養短歌》に続き、その時々の在りの侭の気持を詠まれたものです。 |
|
|
|
イ 凍てつく夜荒き呼吸の熱き息眠れぬ枕辺温めんと |
|
ロ 老兵は常在戦場闘いに酸素カートを鎧のごとく |
|
ハ 鼻マスク鼻腔の痒み耐えかねて耳掻き挿し入れ掻くは快感 |
|
ニ ニンニクに人参煮干ニラもある滋養の糧に肉までも |
|
ホ 歩行して息切れ始まり早けれど車の運転長々平気 |
|
ヘ ヘトヘトに苦悶の極み経験す日頃の息切れ軽しと我慢 |
|
ト 歳だから慢性だからと治す意気弛緩すまいぞ病友諸兄 |
|
チ 知識欲あれど記憶に修まらず本に淫する肺病みの日々 |
|
リ 旅行する一泊行は過去の事日帰りさらに半日帰り |
|
ヌ 温もりを求めて彷徨う情念を弱気の虫と哂ってくれるな |
|
ル 涙腺が敏感になったと苦笑いテレビの愛の結末に涙 |
|
ヲ 奥の手で治して下さい主治医様手品神の手手段選ばず |
|
ワ 忘れ物一日三回以内でも守れぬままに月日は早し |
|
カ 看護師の優しかれと願いつつナースコールを思い切り押す |
|
ヨ よく笑う良き日終わりて息切れも軽く過ぎたと再び微笑む |
|
タ 堪え難き気分の沈み午前中夕方頃の快復不思議 |
|
レ 連続に咳き込み響く深夜部屋寝息気にして必死に宥めん |
|
ソ 傍に在る物を取ってと頼むこと |
怠惰じゃなけれど済まぬと詫びて |
|
ツ 妻ヨシ子長子健太郎次男英二犬のハナ・マル家族は健康 |
|
ネ 年金が頼りの余生感謝あり政府の施策敏感になるも |
|
ナ 亡き母の吾の肺病み知らぬこと親孝行のひとつと思ふ |
永き夜の人工酸素と呼吸器の音の響きを子守唄と聴く |
|
ラ 来年も必ず観ると梅の園しぶとく余命確かめるごと |
|
ム 無為の日は呼吸ばかりを意識しつやがて就寝何故か焦りが |
|
ウ 歌うこと肺活性に良薬と音痴かまわず声張り上げて |
|
ノ のびのびと手足を伸ばす入浴は |
出来得るときに愉しむように |
|
オ 老いらくの恋は甘くて切ないと |
眼を輝かせる友はカニューラ |
|
ク 首元が寒いとタオル巻きつけて家に籠もりて身なり構わず |
|
ヤ 痩せ身体食べれば強くなるものと永き過食に糖が反発 |
|
マ 満開の観桜再び何時のこと車椅子降り花びらを踏む |
|
ケ 健常者低肺経験なかりけり理解の垣根妻よ超えてと |
|
フ 復活はイエスズだけぞ凡人は慢性維持を軽くと願う |
|
コ 転ばぬが長生きの秘訣肺病みの早春の散歩脇目もふらず |
|
エ 越冬と南極にいるごと厚着して厳寒迎ふ覚悟固めり |
|
テ 点滴の落ちる速度で終わり知る |
自慢にならぬもの知りとなり |
|
ア 雨後の大気清冽深呼吸荒き呼吸を鎮めて縁側 |
|
サ 酸素カート引く手の手袋派手模様発症あとお洒落傾向 |
|
キ 気を元に戻して元気取り戻す謂れに歓喜至福を偲ぶ |
|
ユ 夢遊び肺障害忘れおり海や野山の愉快満喫 |
|
メ メル友の励ましありて増悪と戦う吾は竜神と化す |
|
ミ 未知の病手探りで過ごす日常は医師の指導を痛切に願う |
|
シ 執拗な息切れ続く辛きとき鬱が台頭躁が消沈 |
|
ヒ 陽だまりの椅子に座りて療養の歌詠む平穏居眠り襲う |
|
モ 黙々とリハビリ体操軽くとも現状維持こそベスト選択 |
|
セ 先輩の低肺患者助言あり医師の説明不足補う |
|
ス スポーツマン強き筋肉比較して低肺機能と落差極まり |
|
|
|
|