◇ 「慢性呼吸不全」とは? ◇
在宅酸素療法H.O.T.(Home Oxygen Therapy/ ホーム オキシジェン セラピー)で慢性呼吸不全の予後がとても改善され、生活の質(Q.O.L.)をあげることが出来ています。
この慢性呼吸不全の全体像を大掴みにご説明いたします。
  1.呼吸不全とは?
  2.慢性呼吸不全とは?
  3.呼吸不全をきたす基礎疾患
  4.慢性呼吸不全の症状と身体所見
  5.呼吸困難の重症度(Hugh-Jonesの分類)
  6.慢性呼吸不全の診断と検査
  7.治療と予後
  8.在宅酸素療法の対象疾患と、保険適応基準

1.呼吸不全とは?
人間は、生きていて行動するためにはエネルギーが必要です。そのエネルギーを得るために食物を食べ、消化して栄養分にしています。身体の組織の中に取り込んだ栄養分をエネルギーに変えるために、これを燃やさなければなりません。
栄養分を燃やすには酸素が必要ですし、酸素を燃やした結果出る二酸化炭素 (CO2)を身体の外に捨てなければなりません。これらの酸素を取り込み二酸化炭素を身体の外に捨てる活動を『呼吸』と言います。この呼吸活動は気管支と肺で行なっています。
これらの器官が病気のため十分な働きが出来ない時、脳は酸素が足りないことを感知して「もっとしっかり呼吸をしなさい」と指令を出しますが、それに応えられず、
動脈血の中の酸素が不足している状態を「呼吸不全」と言います。
〔医学的定義〕:呼吸不全とは、呼吸機能障害のため室内気吸入時の動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr以下となりその為に生体が正常な機能を営むことが出来ない状態
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2.慢性呼吸不全とは?
〔医学的定義〕:呼吸不全が1ヶ月以上続いた状態。
動脈血酸素分圧(PaO2)
の値により3種類に分類。
T型呼吸不全  PaO245Torr
U型呼吸不全  45Torr≦PaO260Torr
準呼吸不全  61Torr≦PaO270Torr

3.呼吸不全をきたす基礎疾患
現在、慢性呼吸不全で在宅酸素患者は約10万人で、主な病気は、慢性閉塞性肺疾患(39%)、肺結核後遺症(18%)、間質性肺炎(12%)、肺がん(12%)です。呼吸不全をきたす呼吸器の基礎疾患を下に示します。
 1)呼吸中枢の抑制
 2)神経・呼吸筋の障害
 3)胸部・胸腔あるいは胸膜の変化
 4)上気道の障害
 5)下気道および肺実質の障害
気管支喘息、COPD慢性閉塞性肺疾患(肺気腫、慢性気管支炎)、びまん性汎細気管支炎、気管支拡張症、閉塞性細気管支炎、肺炎、無気肺、がん性リンパ管症、肺水腫、急性呼吸窮迫症候群(新生児、成人)、肺胞タンパク症、肺がん、サルコイドーシス、塵肺、間質性肺炎(肺繊維症)、過敏性肺臓炎など
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4.慢性呼吸不全の症状と身体所見
慢性呼吸不全 主症状 身体所見
 低酸素血症 呼吸困難  頻呼吸,頻脈,チアノーゼ
高炭酸ガス血症 頭痛,振戦 縮瞳,うっ血乳頭,意識障害

 5.呼吸困難の重症度(Hugh-Jonesの分類)
呼吸困難(息切れ)とは「呼吸に際して感じる異常な不快感」と定義される主観的な感覚である。呼吸困難の重症度の判定には、労作との関連を考慮した下記のヒュー・ジョーンズの分類が有用である。
 T度
 (正常)
同年齢の健常者と同様に仕事や、歩行や階段の昇降も健常者並にできる
 U度
 (軽度呼吸困難)
平地は同年齢の健常者と同様に歩行できるが、坂や階段は健常者並には昇れない
 V度
(中等度呼吸困難)
平地でさえ健常者並に歩けないが、自分のペースなら1km以上歩ける
 W度
 (高度呼吸困難)
休みながらでなければ50m以上歩けない
 X度
 (重度呼吸困難)
会話や着物の着脱にも息切れがする
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6.慢性呼吸不全の診断と検査
診断・・病歴、症状、身体所見より慢性呼吸不全を疑い、動脈血ガス分析により診断する。
検査・・
<基礎疾患・増悪因子・合併症検索のための検査>
・胸部X線・CT検査
 肺野透過性亢進、陳旧性炎症など
・呼吸機能検査
 閉塞性・拘束性障害、肺拡散能力の低下など
血液検査
 白血球・好中球増加、核左方移動、CRP上昇、血沈亢進
・喀痰の塗抹・培養検査
運動負荷試験、呼吸筋機能検査、右心機能検査、
 睡眠時呼吸障害検査
 などが行われる。
<確定診断のための検査>
・ 動脈血ガス分析 
 動脈血酸素分圧(PaO2)低下、
 動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)上昇
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 7.治療と予後
呼吸管理
<急性期>:低酸素血症、高炭酸ガス血症、アシドーシスに対して、酸素投与、人口呼吸管理、気管切開など
<慢性期>在宅酸素療法、在宅人人工呼吸療法、酸素輸送能の改善Paのため循環動態の管理、貧血の改善が行われる
合併症・増悪因子に対して
肺炎、気胸、心不全などの合併症や増悪因子に対して、抗菌薬、気管支拡張薬、副腎皮質ステロイド薬の投与、胸腔ドレーン挿入、異物除去などが行われる。
基礎疾患に対して
基礎疾患の進行阻止と対症療法のために、薬物療法、呼吸リハビリテーション、栄養管理などが行われる。
予後
在宅酸素療法によって、慢性呼吸不全の予後は改善され、延命効果がある。
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 8.在宅酸素療法の対象疾患と、保険適応基準
1)高度慢性呼吸不全例
 *PaO2≦55Torr または、
 *PaO2≦60Torr で、睡眠時または運動時に著しい低酸素血症をきたす場合で、医師が在宅酸素療法を認めたもの
 *酸素吸入以外に有効と考えられる治療(抗生物質、副腎皮質ステロイド薬、気管支拡張薬、利尿薬など)が積極的に行われており、少なくとも1ヶ月以上の観察期間を経て、安定期にあること
 *適応患者の判定に1994年4月より、パルスオキシメーターによる酸素飽和度(SpO2)から求めた動脈血酸素分圧を用いてもよいとされた。
2)肺高血圧症
3)チアノーゼ型先天性心疾患
このページは学研『呼吸器疾患ナーシング』山脇功先生(東京女子医大付属第2病院)編集を参考にさせて頂きました。
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