“COPD”とは?(禁煙に踏み切れない方へ)
COPDとは、いままで肺気腫、慢性気管支炎と言われていた二つの病気を、WHO(世界保健機関)のガイドラインに沿ってまとめて呼ぶようになった病気の名称です。
(Chronic:慢性,Obstructive:閉塞性,Pulmonary:肺,
 Disease:疾患)の頭文字からCOPDと呼ばれます。
主にタバコが原因で咳、痰、息切れから始まる!
COPDは中年以降の喫煙歴のある人の約20%に発症しており、年齢が上がるほど発症頻度が高くなっています。
痰や咳が出る、風邪が治りにくい・・ 喫煙者にはよくある症状から始まり、徐々に進行して息切れがひどくなり、やがて呼吸困難を起こすようになる怖い病気です。
タバコを長期間繰り返し吸うことが原因で、現在は男性が圧倒的に多いのですが、同じ喫煙量では女性の方が重症化するデータがあり、今後女性患者の増加が懸念されます。
自覚症状が出る前の予防的治療が有効!しかし・・
患者数22万人に対し、潜在患者数は非常に多く500万人以上と考えられていますが、初期段階の痰や咳をCOPDという病気とは知らずに、必要な診断・治療を受けていない人がとても多いのです。
COPDによる息切れは、坂道や階段を上る、荷物を持つなどの負荷がかかった時に感じるようになります。さらに進行すると、衣類の着脱などの日常動作を行っただけでも呼吸が苦しくなります。
発症のピークは50〜60代ですが、これは自覚症状が現れる時期であり、実際には若い頃から気づかずに悪くなり、10〜20年かけてジワジワと肺機能が低下して、半分ぐらいに落ちてはじめて自覚症状として現れます。
詰まる気管支、壊れる肺胞、重症化すると・・
長年にわたる喫煙など有害物質の吸引によって気管支に炎症が続くと、気管支は硬く肥厚し、空気の通り道は狭くなります。さらに炎症が続くと、粘液の分泌(痰)が増加して狭くなった気管支に詰まり、いっそう狭くなります。
肺胞も、長引く炎症で薄い肺胞を仕切る壁が次第に壊れ、肺胞どうしが融合して大きな空間になってしまいます。
すると、呼吸によってガス交換をする表面積が少なくなり、一度にガス交換出来る量も減ってしまいます。また、ゴム風船のような肺胞の弾力性がなくなって、膨らんでも収縮できず、広がったままの紙風船のように変質して勢いよく息を吐くことが出来ず、呼吸が苦しくなります。
COPDが重症化してくると、息切れの症状が強くなり、息苦しさに汗をかき、呼吸に多大のエネルギーを使うために痩せ、筋萎縮が強くなって筋力が低下し、体力も落ちます。活動性が悪くなるとQOL(生活の質)も落ちて、寝たきりになりかねない怖い病気です。
合併症の多い病気、多額の医療費も!
COPDは全身の病気です。中程度の患者さんの2割弱ぐらいに肺ガンがみられます。そのほか骨粗鬆症、胃潰瘍の頻度も高くなります。四肢の骨格筋の萎縮、筋肉低下、風邪による急性増悪からの肺炎、白内障、息切れによるうつ傾向、など多くの合併症を引き起こしやすくなります。
ひどくなれば在宅での酸素吸入が必要になり、場合によっては人工呼吸器も必要になります。これは健康保険が適用になったとはいえ、多額の医療費が長期にわたって必要な状態です。そういう意味でも、COPDは非常に深刻な病気で、介護にあたるご家族の負担も大きなものになるので早期に肺機能の低下を食い止めることが、重要なポイントになります。
診断はスパイロメーターで簡単に
肺の検査には]線検査やCT検査がありますが、COPDの診断には、「肺機能検査」という検査法が最も適しています。スパイロメーターで肺活量の1秒量(最初の1秒間に吐き出す量)などを測定する非常に簡単にできる検査です。患者さんは検査器具を口に当て、大きく息を吸って勢いよく吐き出すだけです。
禁煙が最大の予防!
一度破壊された肺胞を元に戻すことは出来ませんが、破壊を食い止めたり、併発している気管支の異常を改善して、息切れや呼吸困難の症状を軽減することは出来ます。完全には治癒しませんが、予防し得る病気であり、最大の予防は禁煙です。
「タバコはやめたくない!」「今さら遅いだろう?」という方もいますが、どの年齢からでも禁煙した時点から、肺機能は非喫煙者と同じように生存率のカーブが好転しますので、いつ止めても、その方にとっては悪化防止になります。喫煙者はやはり痰や咳が出ることが多いですから、喫煙者全員がCOPD予備軍と言えます。
また気道が過敏など発症しやすい体質があると考えられていますので、親兄弟に呼吸器の病気がある方は、特にご注意ください。今は、ニコレット(ニコチンガム:市販品)やニコチンパッチ(経皮ニコチン吸収剤:処方箋が必要)で禁断症状を軽くする方法もあります。これらの助けを借りて、うまく禁断症状を切り抜けるのもひとつの手です。
禁煙を成功させる工夫
禁煙したくても出来ないというひとは「ニコチン依存症」という病気であるといえます。ニコチン依存になると、血液中に一定量のニコチンがないと、不安・イライラ≠ネどの「離脱症状(禁断症状)」が 現れるため禁煙がなかなか続かないようです。
あなたは「ニコチン依存?」(Fagerstromのニコチン
耐性評点によれば、以下の場合にニコチン依存とされる)
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  ・起床後30分以内に喫煙する
  ・図書館、劇場、医師の診察室のような喫煙が
   禁じられている場所でも、禁煙が耐えがたい
  ・1日の最初の喫煙が最も楽しい
  ・1日に26本以上喫煙する
  ・たばこの煙を吸入する
  ・病気のときにも喫煙する
  ・午前中のほうが、その他の時間帯より喫煙量が多い
禁煙を成功させるための工夫
  ・タバコや喫煙具を身近に置かない
   (目に付く所にあると誘惑が増すので、
     思い切って捨てる)
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  ・吸いたくなったら気を紛らす
   (「水を飲む、体操をする、くるみをいじる」
     などして、気をそらす)
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  ・喫煙のきっかけになることを避ける
   (アルコール、コーヒーなどは喫煙を誘いやすい)
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  ・喫煙の代わりになることを用意する
   (ガムや禁煙パイプなど、タバコの代わりに
     なるものを用意する)
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  ・ニコチン依存、意思の弱い人は医師の助けを借りる
   (ニコチンガム、ニコチンパッチなどにより、
     徐々に離脱を図る)
   (医療機関の禁煙プログラムに参加する)
※「禁煙Webクリニック」                       http://www.nifty.com/kinen/
禁煙後に現れる身体の変化
[20分後]
血圧が正常になる。脈拍が減る。血流が回復し手足の温度が上昇しはじめる。約半数の人に、うつ、集中力の低下。約4分の1の人に夜間覚醒が現れる(ニコチン離脱症状)
[8時間後]
酸素濃度が上昇して呼吸が楽になる。心臓発作の確立が低下する。
[24時間後]
血液中の一酸化炭素が正常になり、肺は不純物を除き始める。離脱症状はここからの48時間が最も辛い。
[48時間後]
味覚や嗅覚が回復する。体内のニコチンは完全に消失。
[72時間後]
喫煙刺激による期間の狭窄がとれ、呼吸量が増えて息をするのが楽になる。COPDの病的な進行がとまる。
[2週間から3ヶ月後]
血液の循環がよくなり、歩行が楽になる。ほとんどの離脱症状は消失。ストレスレベルも低下する。
[3〜9ヶ月後]
咳の回数が減り、鼻づまりがおきにくくなる。疲れにくくなり、息切れも軽減する。気管の繊毛が再生してくるので気管内がきれいに保たれるようになり、呼吸器の感染症にかかりにくくなる。肺機能も5〜10%改善するといわれている。
COPDの治療
COPDは慢性疾患の病気ですから、症状を和らげ進行を遅らせることが大切です。「もう歳だから治らない・・」とあきらめず、まず禁煙! それと薬物療法運動療法などの治療をきちんと受け、症状を改善していき、日常生活の範囲を少しでも広げるようにしましょう。そうすれば歳をとっても快適に暮らすことが出来ます。
 [禁煙]・・タバコは厳禁
吸いながらCOPDの治療をすることはありえません。
 [薬物療法]
吸入薬−抗コリン薬、吸入ステロイド薬、β刺激薬
去痰薬−からんだ痰を出しやすくして、
     気管支の通りをよくする
ステロイド薬−重症例で有効な人に使用。
     骨粗鬆症(副作用)の薬の併用も
 [運動療法]・・歩く、呼吸リハビリでオリジナル運動
軽症で1万歩、酸素を吸うようになっても1日20分を目標
 [呼吸理学療法]
腹式呼吸−胸郭、横隔膜を意識的に下げることで、空気を充分吸い込む方法。まずは寝た状態で、それから座って、立って、歩いた状態でと、日常生活の中で腹式呼吸が出来るように理学療法士の指導の下で訓練する。
口すぼめ呼吸−口をすぼめて空気を深く吐き出す
 [栄養指導]・・痩せ、肥満共に動けなくなる原因
痩せる−息切れの症状が強く、呼吸に多大なエネルギーを使うために痩せる
太る−咳や痰の症状が強く活動量が低下して、エネルギー摂取量とのアンバランスで太る
 [酸素療法]・・酸素吸入
呼吸困難がひどくなると、酸素を吸入する。酸素を吸いながらも適度な運動を続ける事が大事。
 [在宅人工呼吸器の使用]・・睡眠時使用
血液の中に二酸化炭素が多くなる人には、夜間だけ人工呼吸器「鼻マスク」を使い、眠っている間の横隔膜の負担を減らして休ませ、横隔膜の疲労を防ぐ。
楽な呼吸のために
リラクゼーション
・リラックス運動−息を吸いながら肩をすくめ、吐きながら緩めることを繰り返すなど、どの箇所でも筋肉に力を入れて収縮させ、徐々に緩める運動。
・呼吸が苦しくなったとき−座るか立ったまま前向きにもたれて口すぼめ呼吸をし、リラックス運動を行い、吸入薬を使って切り抜ける。
楽な体の動かし方
動作に呼吸のリズムをつける。荷物を持つ、服を着るなどは息をきながら。
・歩き方・・歩き始める前に息を
いて、いて、いて、いて、って、って」
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・階段・・脚を上げる前にって「いて、いて」で
上がり「って、って」を繰り返す。
生活上の注意
COPDの患者さんは、少し動くと息切れがするため家の中でも動かなくなり、外出も避けがちになります。その結果、足腰が弱くなり心臓の力も弱ってくるため、ますます息切れが激しくなるという悪循環に陥りやすくなります。
苦しくならない程度に自分のペースで歩いたり、自転車に乗ったりして、基礎体力を保っておくことが大切です。
たとえ重症になり酸素吸入をするようになってもこの「ホットの会」の会員のように旅行も家事もし、寝たきりにならないように運動をし、自立した生活を目指しましょう。
かかりつけ医と専門病院を組み合わせて・・
痰や咳、息切れがある方は、かかりつけ医に呼吸器科のある病院を紹介してもらい、検査を受けてください。
日本呼吸器学会のHPにも認定施設が出ています。
そして、まずは禁煙、そして服薬、運動や呼吸法などの呼吸リハビリをして、これからのあなたの健康に前向きに取り組んでください。
このページは「明日の友」146号木田厚瑞先生の医学特集を参考にさせていただきました。おひとりでも多くの方の禁煙治療のきっかけになれば、幸いです。
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