◇ 市民公開講座 ◇ (2003.3.16) | ||||||||||||||||||||
「肺癌と告知された時にすること」 | ||||||||||||||||||||
九州大学大学院 胸部疾患研究施設教授 中西 洋一先生 | ||||||||||||||||||||
目 次 |
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1.はじめに | ||||||||||||||||||||
私の話と申しますのは「がん」という少しばかり深刻なテーマの話です。また「がんの告知」という問題は、普段の生活を送っている方には身近なこととしては捉えられていないと思います。 しかしながら考えてみますと、今、日本人で3人に1人の方はがんで亡くなっています。また一方でがんの患者さんの半分は治る時代になっています。 |
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ということは、亡くなる方よりも告知を受ける患者さんの方が当然多いわけです。患者家族として告知を受けるということを加えますと、恐らく、ほとんどの国民はがんの告知を受ける機会があるということになると思います。私自身、まだ50に満たない歳でありますが自分の身内、家族のがん告知を4回受けました。 | ||||||||||||||||||||
がん告知をする側に立った場合の話ですが、私も初めて告知をする時はかなり戸惑いました。どういうふうに告知するべきかということで悩んだり、家族どうしで告知するかどうかで意見が合わなくて困ったりすることもしばしばありました。しかし、告知が常識とされる時代になってまいりますと、告知をどんなふうに受けるべきかという心の準備のしかた、あるいは、告知を受ける際に少しばかり知っていれば随分と役に立つ情報があることがわかってきました。今日はそういった視点から、告知に関するお話をさせていただきたいと思います。 |
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2.肺癌の現在と将来 | ||||||||||||||||||||
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3.告知を受けた人の心境 | ||||||||||||||||||||
例えば、これは仮にAさんと名付けましょう。72歳の女性の方で、軽い糖尿病があって、糖尿病で近くのかかりつけの先生の処にかかっておられました。あまり多くはないのですが、タバコをお喫みになっていました。去年の6月頃から坂道や階段を上る時に息切れがして、ヒューヒューと音がする息がつかえてきました。かかりつけの先生に相談されたら喘息だろうというので、喘息の治療を受けておられました。 しかしながら、半年以上経っても喘息が良くならない。段々ひどくなるということで別の病院を受診されました。 |
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これはAさんの胸部レントゲン写真です。症状が進んだ時に撮ったレントゲンですけれども、専門家の目で見ても、どこに異常があるかよく分からない。そういったことで喘息じゃなかろうかというふうに診断されていたのです。 専門病院で一連の検査を受けて、病院の待合室で結果報告を待つわけですけれども、何と言われるのか大変心配です。名前を呼ばれ、青ざめた顔をして診察室へ向かうことになります。医者というのはその辺は慣れていますから、ごく自然な笑顔で患者さんにとっては残酷なことを言ってしまいます。「えーと、この前の検査、カメラの検査ですね。あの影、実はがんでした。」軽く言うのですね。 |
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実は、私どもも告知を始めた頃はいろいろなことを想定して重苦しい空気の下で告知していたのですが、深刻な顔をしてお話しても軽妙なムードでお話しても、病気の内容に変わりがあるわけではありません。私どもまで悲痛な顔をしてお話しても仕方がないものですから、ごく軽く申し上げてしまいます。そうすると、だいたい、口をあんぐり開けたり、「我ここにあらず」というふうな顔をなさる方が多いですね。「残念な結果と言わなければいけませんが、肺癌だったんです」と申し上げる。これに対して返事もなさらないケースがしばしばです。 |
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以前はまず、「ちょっと、ご家族の方だけお入り下さい」と、ご家族だけをお呼びして、こっそり病名を告げるというのが日本の一般的なやり方でしたけれども、今はそういうことは非常に稀になってまいりました。今はまず、ご本人にお話をするというのが病院の基本的なやり方になっています。それについてまだ賛否両論というか 一部「それはちょっと・・・」ということをおっしゃる方もありますが、既にもう20年前から、法律の世界ではご本人に申し上げなければならないということが義務付けられています。それをしないと医師は法的に裁かれることにもなります。また、真実を告げないことが、かえって大きな問題になりがちであることも私たちは経験的にも、或いは統計的にも充分知っております。そういうわけで病名をありのままにお伝えしてしまうわけです。この時にはやっぱりきちんとした説明をしなければならないわけですから、検査結果をレントゲンなどをお見せしながら報告します。 |
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レントゲンでは何ともないようですがCTスキャンを撮りますとこういうところに何かよく分らない影があります。これ(下)は内視鏡写真を撮ったものですけれども、空気の通り道である気管にがんが出来てしまっている。そのために空気の通り道が狭くなって息が苦しくって、ヒューヒューいうということになっていたわけです。いろんな検査結果については患者さんにも実物を直接お見せしながら説明するわけですね。 [肺腺癌 右肺門原発] |
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まあ勿論、これは人それぞれです。それぞれの方でそれぞれの反応があります。ただ、やはり一般的に、「がんですよ」とはっきりと言われた時には目の前が真っ白になってしまって、その時自分はどうなっていたのか覚えていないという方は少なくないようです。また、「何で自分だけがこんな目に遭わなくてはならないのか、街を歩いている人はみんな楽しそうに元気そうに歩いているのに」、そんな怒りがこみ上げてくるという方がおられます。「自分のことはいいけれども、残された家族のことを思うと胸が一杯になって涙が止まらない」という方もしばしばあります。「唯々、死ぬのが怖い」ということでパニックになってしまう方もあります。反応は人それぞれですけれども「あぁ良かった」と言われる方はもちろん、一人もありません。 |
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4.告知を受けた家族は | ||||||||||||||||||||
もちろん、患者さんご本人だけではなくて、ご家族もいろんな形で苦しみを背負われます。「かけがえのない家族を失う予感とか、絶望感が漂うこと」などがあるかと思います。また、「これから本人は痛いだろう、苦しいだろう」という不安を強く感じる方も少なくありません。 |
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また、「よし、何が何でもよくなるために何かして上げなければいけない」と、家族の方を思いやられる−非常に強く思われる−そのために、効果があると聞いた治療は何でもやりたい、ということで、「あれもしてくれ、これもしてくれ、何でもしてくれ」ということで、医者との間で押し問答になることがよくあります。医者が「こういうことはかえって害になりますよ、やっても意味がないですよ」と言うのに、「医者だか何だか知らんけれども、そんな冷たいこと言うな」と怒られる方もおられます。できるだけ私どもは冷静に接したいと思っておりますけれども、なかなか冷静に充分な話が出来ないことも少なくないわけです。 |
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それから、いわゆる霊感商法みたいなものも横行しています。がんの患者さんがおられると、いろんなところからいろんな人がいろんなものを勧めにまいります。これは私自身の経験なんですが、私の父ががんになりました時に、やはり不思議なものを売りに来る方が幾人もおられました。突然来られるのですね。いわゆるカルト医療と名付けているものですが、多くのものは高額で、大体50万円以上100万円以下という料金設定が多いですね。 |
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親戚の方との関係もなかなか大変です。ご兄弟がおられたりうるさい姑小姑との関係で悩む方がたくさんおられます。意見が違うということで、本人との関係を一番大切にすべき時なのに親戚との関係がうまくいかなくて、それでもう患者さんのことなんか思いやる余裕も無くなってしまうということがしばしばあります。 |
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また、患者さんと家族との関わりで考えますと、病気が進んでしまっており今の時点ではもう病院に居ても余り出来ることがなくなった、或いは、病院ですることはとりあえず終ったという時に、しばらくはお家に帰りませんかとお勧めしても、「いつ何が起こるかわかりません。その時が心配です。私が困るから帰さないで病院に置いて下さい」と言う方がおられます。患者さんがどんなにお家に帰って家のご飯が食べたいとおっしゃっても、かたくなに病院に置くことが一番いいと思われるケースです。 |
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家に帰られても病人だから何もさせない。ご本人がちょっと散歩したいとか友達に会いたいと言っても、「身体に悪いから何もするな」とさとし、結局患者さんは何もさせてもらえずに、唯々ボーッとして、余り良くないことばっかりを考える。そういうことも少なからずあるようです。 |
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病気が進みますと、私どもとしては今のうちに会わせておきたい方には会わせておいて下さいと話をします。告知をしていない場合にしばしばあるのですが、親戚や、長く会っていない兄弟に会わせたりすると死期が近いということが分ってしまうからと、結局患者さんにとって大事な人に会えないままに亡くなってしまうケースがあります。これらのことはすべて、ご本人のことを思いやってなさることなんですけれども、必ずしもご本人のためになっているかどうか分からない−そういう一連の誤解や悲しい行き違いが、ご本人、あるいはご家族、親戚などにいろいろな形で起こってくるわけですね。 |
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5.まず現状を知りましょう | ||||||||||||||||||||
そういうふうで、がんになってしまうといいことなんか何にもないかといいますと、決してそうとも言えない面があります。がんであることは歓迎すべきことではありませんけれども、だからすべてが終ることではないということ、したがってがんであることを知った時点から何をするべきか、ということが今日お話したいことです。 | ||||||||||||||||||||
先ほど申し上げましたように、たとえば今の時代、がんといわれましても、半分の方は治るのです。特に早期のがんというのは非常に高い確率で治るのですね。進行期のがんであっても絶対に治らないということもない、少数ながら治る方もあります。 |
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まずは病気がどういう状況かを知ることは非常に大事なことです。例えば目に見えない敵と戦う時は非常に怖いですね。幽霊屋敷でもホラー映画でも、出てこないから、見えないから怖いわけです。実際に見えてくると決して歓迎すべき形でなくても、それはそれで、まあ、こんなものかということが分かってくるわけです。 |
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肺癌の進行度と治癒率(n=7047) |
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がんということを考えた場合、一番怖いのは治らないのかどうか、つまり死ぬのではないかということでしょう。何度か申し上げたように、がんの半分は治ると申し上げました。率直な話、肺癌というのはすべてのがんの中ではけっして治療成績がいいほうではありません。 | ||||||||||||||||||||
しかし例えばT期といわれる、手術をすれば完全に病巣が取り除ける病気ですと、大体、6割から8割くらい、平均で7割くらいは治ります。 | ||||||||||||||||||||
それからU期といわれて、これはリンパ節に転移があるけれど、それでも手術をすればリンパ節を含めて病巣が取れるという場合、大体半分くらいの方は治るのです。 | ||||||||||||||||||||
V期になって、これはちょっと手術では難しいという状況になりますと、当然のことながら成績は下がりますけれども、しかし決して治らないわけではありません。V期であっても2割から3割くらいは治ります。 | ||||||||||||||||||||
W期ということになりますと、現実問題として完全に治る率はそう多くはないのですが、しかしだからといって0ではないことも確かです。 | ||||||||||||||||||||
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告知をした時に当初は非常に戸惑われましたけれども、幸い早期のがんということで手術をお勧めしました。手術についてもなかなか踏み切れなかったようですが、最終的には手術を決断され、今では普通に元気な生活を送っておられます。このケースなどは告知をしないでいると迅速に適切な治療は難しかったと思われる症例です。 | ||||||||||||||||||||
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6.肺癌のどこが怖いのか | ||||||||||||||||||||
「苦しくないですか、痛くないですか」ということを、ご本人よりもご家族の方が非常に心配されます。 |
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痛みというのは数字で測ることができるものではありません。がんの痛みも、ほかの痛みと同様に身体に感じられるわけですけれども、しかしながら、この痛みというのは、ただ、そこに痛みがあるだけではなくて、「もしかしたら職を失うかもしれない」、「お金がかかるのじゃなかろうか」、「自分が死んでしまうと取り残された家族はどうなるのだろうか」、大きな不安や、落ち込みというのがあります。それに加えて、先ほど申し上げた人間関係のこじれ等がありますと、これらが痛みというものを非常に増幅させてしまいます。その結果として、痛みが非常に強いものとして感じられるということになります。 |
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ここで忘れてはならないことは、痛みというのは決してどうしようもないものではないということです。下のスライドは1993年にWHOから出された痛み治療の倫理に関する宣言です。この宣言では、患者には痛みをコントロールするために充分な鎮痛剤を要求する権利があり、医師はそれを投与する義務がある。痛みから解放されることは総てのがん患者の権利である、と述べています。 | ||||||||||||||||||||
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何でこういう宣言が出されたかというと、痛みから解放ができるというかなり強い証拠があるからこそです。手段がなければこんなことは言えません。手段があるから、ちゃんと手を尽くしなさいよと医者に言っている。また、患者さんにもそのことを教えているのです。実際、適切に痛み止めを使うとがん患者の痛みを9割以上解決するといわれています。そして、痛みを取りさえすれば患者さんはよく眠れますし、よく考えられます。日々の生活に復帰して病気と戦う心も高まりますし、心の痛みを乗り越えてゆく気力さえ持つようになるといわれています。 | ||||||||||||||||||||
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臨床の場合にはいろんなタイプの痛み止めがありますが、1番効果的なものはモルヒネです。いわゆる麻薬です。痛みを取ることで快適な生活が可能になります。正しい量を使うと、ほとんどの人で痛みを和らげることができます。もちろん、幾つか副作用はあります。むかむかするとか頭痛がするとか。しかしそういう副作用はきちんと使い方に馴れた医師が対策を講じて使えば必ずコントロールできますし、また患者さんも飲み続けることで副作用に馴れることができます。 使用量に上限はありません。痛みをとるまでの量をいくら増やしても上限はないということです。つまり、どんどん増やしていって痛みが取れるまで使ってもいいということ、使い方が正しいのであれば麻薬中毒にはならないということが分っています。 |
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したがって、がんが進行して苦しい方であっても、家で生活がしたい、家族と時間を過ごしたいという方には、症状に応じた対応が出来るという事も知っておく価値があるかと思います。 | ||||||||||||||||||||
そういうわけで、肺癌には苦痛がないわけではありません。しかしながら、そういった苦痛につきましては、医療の進歩に伴って対策も進んできているということで、とにかく、何も知らずに恐れるよりも、こういう方法がある、ああいう方法があるということを知っておくということで、無駄な恐怖心をなくすことができると言えます。 |
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7.肺癌と告知された時に心がけること | ||||||||||||||||||||
さて、これから先は時間の関係で少し端折りながらお話をさせていただきたいと思いますが、幾つか大事なお話がありますので、ポイントとして押えていきたいと思います。 | ||||||||||||||||||||
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1つは良き相談相手を見つけることです。自分だけで悩んではいけません。相談する人と一緒に話を聞いたり考えたりしていくのが重要です。 2つ目に紹介状のことです。あそこの病院に行きたいのだけれど、診ている先生は紹介状を書いてくれるだろうかとか、希望の病院を紹介してもらえないのじゃなかろうかという声をよく聞きますが、まず、これは申し出て下さい。「そこの病院に行くことはないのではないか」というアドバイスがあるかも知れませんが、基本的には、患者さんが希望される病院でいいと判断されれば必ずそこの病院を紹介するというのが私たちの基本的な姿勢です。 3つ目にインホームドコンセントとセカンドオピニオンの話があります。遠くの有名病院か、それとも近くの…ということですが、患者さんにしてみると、通院するだけでも苦しいということもありますから、病院の看板だけを頼りに、あまり遠いところに行くというのは必ずしも得策という訳ではありません。 |
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むしろ、病気の進み具合によって、病院にはそれぞれの役割があります。それを上手に使うことのほうが重要だと思います。大学神話と大学嫌いということで、大学で何でもかんでも診てほしいという方もおられますし、逆に大学は患者をモルモットにするからいやだという方もあります。私は大学の人間だからというわけではありませんが、やはり、それぞれの役割がありますし、決して患者さんを、興味本位の実験対象にしていることはありませんので、そこは、大学のような専門病院で診てもらうべき状態なのかどうか、そこの決定がまず第一に必要なことだろうと思います。 | ||||||||||||||||||||
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8.緩和医療のこと | ||||||||||||||||||||
最近は緩和医療を行う病院とかホスピスが非常に増えてまいりまして、これが患者さんとご家族にとって非常に助かっているということがあります。大学とか先進的な病院で行っている、積極的な治療をやることが適切ではないと判断された患者さんが、こういう施設での医療を受けることになるわけですが、こういう施設の非常に重要なポイントは、「死に行く場所ではなくて、人生のある時期に、よりよく生きるために使われている施設である」ということです。したがって、こういった施設は患者さんが快適に生活できるように、いろんな工夫がなされています。もし、緩和医療を受けることを考える時はまず見学をして、話を聞いて、そしてどうするかを決められれば、患者さんの気持ちもご家族の気持ちも病状に応じて安らぐのではないかと思います。また、近頃では在宅医療もがんの患者さんでできるようになりました。まずは、かかりつけの先生、主治医の先生に相談していただきたいと思います。 | ||||||||||||||||||||
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※http://ganjoho.ncc.go.jp/pub/hosp_info/hospital03/ | ||||||||||||||||||||
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9.セカンドオピニオンとは何か? | ||||||||||||||||||||
今の時代、詳しく分るようにご相談をして、そして患者さんの同意のもとでやる治療を選ぶというのが医療の常識になっております。従って、皆さん方が万一がん、あるいはその疑いがあるとされた時には必ず自分の意思とか希望をきちっと伝えてください。 | ||||||||||||||||||||
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現状において、まだまだ充分行われていないことに「セカンドオピニオン」というものがあります。ある病院に行ったけれども、本当に大丈夫だろうか。信頼して良いのだろうか、本当にそれしかないのだろうかという時に、かかった病院での情報を提供していただいて、別の施設で、客観的な第三者としての意見を求めるのが「セカンドオピニオン」というものです。つまり最初にかかって、そこで診てもらった意見が「ファーストオピニオン」、第一の意見ですね。 |
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こちらは第二の意見ということで、自分が受ける治療をよりきちっと納得するために受けるのが「セカンドオピニオン」です。別のどこかの病院で意見を聞きたいという時には、医師に黙ってこっそり受診するのではなくて、必ず診療情報の提供を依頼して下さい。いやだという病院はかかるのを止めていただいたでもいいかもしれません。 |
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10.病状の聞き方:医者に話を聞く時は | ||||||||||||||||||||
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どんなことを聞けばいいのかについては、いろいろ細かいことがたくさんございます。時間の関係で端折りますが、最近、インターネットで詳しい情報が入手できます。 | ||||||||||||||||||||
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さて、医師に病気のことを聞く時の注意事項ですが、必ず予約を入れてください。いきなり行っても医者は忙しい業務に追われています。そして複数の人で約束して行ってください。各人がバラバラで行かれても誤解を生じたり、医師の業務に支障をきたしたり、十分な話が聞けないかもしれません。メモをとって分るまできちんと聞いてください。予約をして病院に行けば、必ず医師は説明をするようになっております。メモをもらったり、コピーをとらせてもらうことも大事なことと思います。 もう一つは、自分にとって都合の悪いことは言いたくないものですが、これは必ずお伝えください。そうしないと医師は判断を誤ります。私どもは守秘義務というのを負っておりますから、それが他人に漏れることはありません。 それともう一つ、その場ですぐ返事をする必要はありません。必ず一晩、二晩或いは4,5日考えて、よく考え、相談して下さい。詐欺師めいた商売をしている人達はすぐに返事を求めますね。医療の世界ではそんなことはないはずですが、よく考えて、それから返事をするという態度は、とっても大事なことです。 |
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11.家族として、親戚として心がけること | ||||||||||||||||||||
次に、親戚付き合いについて、ちょっとだけお話をしましょう。 親戚として正しい対応は、「口を出すよりも、お金を出すこと」、「半端な情報でまどわせるのは非常に困ります。何となくいいかなと思っても、思い付きのことを言ってはいけません」、「よく話を聞くこと」、「お見舞いをするよりも、まとまった手伝いをすること」。そういった援助をきちっとすることで、親戚の立場として非常に役に立つことが出来ると思います。 |
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患者さんにおいては、「自分はいずれ死ぬんだ」ということを自覚してから、実際に亡くなるまでの間に、いろいろ気持ちの変化が起こってまいります。誰もが全部同じようにというわけではないんですけれども、最初はショックで、そんなことはないと思ったり怒ったりしましても、やがて受け入れ、あるいは悟りの境地に達するというのが一般的です。こんなふうないろんな段階の気持ちの揺れや動きがあるということを理解してあげることで、歓迎すべきでない感情のぶつかりを防ぐことが出来ます。 |
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死に行く患者の心の変化 |
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もう一つ重要なことは、患者さん自身は落胆しながらも、同時に希望を常に持っております。がんといわれた時は、いや違うんじゃなかろうか。治らないといわれた時は、治るんじゃなかろうか。いろんな意味で、それぞれの段階での希望を必ず持っているものです。あと半年だと告知された人が、もう終わりだと思って命を途中で終わりとすることは非常に少ないです。むしろ、残された人生をいかによく生きて行こうかと考えるのが、実際の患者さんの気持ちです。このような一連の気持ちの変化や患者さんが常に抱く希望というものを、きちっと感じ取っていかれることはがんと共に生きてゆく上で非常に重要なことと思います。 |
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緩和ケアを実施する施設が最近増えておりまして、この周辺でも木村外科病院、原土井病院、さくら病院、栄光病院等で受けられます。こういった施設の増加や充実は、病状が進んだ患者さんには福音ではないかと思います。 |
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12.まとめ | ||||||||||||||||||||
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最後のまとめになりますが、8人に1人が肺癌で死亡する時代が訪れようとしています。肺癌は決して簡単な病気でありませんが、進行期でも治る場合があります。治らないとしても、病気とうまく共存して苦痛のない生活を送ることが可能です。告知を受けた時は、相談相手、セカンドオピニオン、インホームドコンセント、それから病状に応じた上手な病院の使い方を知ることでよりうまく病気に対処することができます。最近の情報社会の中でインターネットも有用です。 |
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闘うことはないと思いますが、目をそらさずに上手に付き合うことががんという重苦しい病気を目の前にした時に、私たちが出来る一番知恵のある方法ではないかと思います。 【拍手】 | ||||||||||||||||||||
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質疑応答 | ||||||||||||||||||||
司会、原先生 中西先生どうも有難うございました。がんの告知を受けた患者さんの心のこと、家族の対応、そしてその後のケアと、3つの点を分りやすくお話いただきました。会場の方からご質問をお受けしたいと思います。 |
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Q1 最近はアガリクスとかありますけれども… | ||||||||||||||||||||
A1 代替医療の話ですね。最近、メシマコブ、アガリクスなどいろいろありますね。それがどういうものであるかについて、ちょっとお話をします。この手のものは非常にたくさん出ていますね。私共の病院で治療を受けている患者さんでも、使っている方が沢山おられます。専門家の立場として、どういうふうに考えているかを、お話をさせていただきたいと思います。 | ||||||||||||||||||||
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これらは今まで医学的に、あるいは科学的に明らかにがんに効くということが証明されていません。従って、私どもの知識とか経験の中では、これを中心的な治療の治療薬として使おうとは思っておりません。ただ、患者さんがそれを使うことで希望が持てるのであれば、私の個人的な立場としては使ってもよいのではないかと思っております。 ただ、それに過度に頼るというのはけっして得策ではないと思います。肺がんは、手術を受ける場合、放射線治療を受ける場合、抗がん剤を使う場合、あるいは緩和ケアを受ける場合、いろんな治療がうまくいかないので元気はまだあって何か病気に効くことを試したい時、いろいろな段階があると思います。そんな中で、代替医療の薬というのは、明らかに効果がある治療法が余り残されてないとか、やっても身体に合わない時に使うのが適当ではないかと考えます。 |
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例えば、ある種の代替薬品は特殊な薬と併用すると肝機能が悪化することが言われていまして、国立がんセンター等では、あらかじめ代替薬品の使用状況をお伺いして、併用が悪いと判断された時には代替薬品の使用をお断りしているそうです。代替薬品を使いながら、ほかの治療を受ける時には、必ずご相談いただきたいと思います。 私個人の考えですが、決して使っていけないということはないと思いますが、あくまでも副作用がないということと、他の治療と重複することで副作用が高まらないことを確認することが必要ではないかと思います。 もちろん、こういったものが本当に効くということが証明されれば、私どもは積極的に使っていこうという考えでおります。 |
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Q2 お伺いいたします。がんだけの適用じゃございませんが、何処の病院に行きましても3ヶ月経ちますと「本当にすまないけど出て行ってくれ」と、こういうように必ず言われます。出ますと必ずまた、同じような検査が重なってあるわけでございますね。その点もありますけれども、3ヶ月過ぎて、ようやく病院に慣れたかなと思ったら換わらなければならないというような実情がありますが、よく聞いてみると、この点は病院の実収関係じゃなかろうかと患者としては察するわけです。何とかこの点を解決できないだろうかと思いますが。 | ||||||||||||||||||||
A2 その辺のところは私どもが決めることではなくて、これは厚生労働省を含めたお役所の仕事としてそういうことがされております。部分的には非常に矛盾があるのは私も感じておりますし、現場で困ることもあります。 | ||||||||||||||||||||
ただ、考え方の1つとして、病院に役割があるという前提があります。急性期の病院というのは、集中的にしかも、非常に高度な機械を使って治療を行います。そういう医療が必要な方を対象にしたのが急性期の病院の役割です。急性期の病気というのは2週間か3週間で大体、ひと段落つくはずだというのが基本的な考え方ですね。 | ||||||||||||||||||||
だとすれば、3ヶ月よりも長い入院が必要な状況というのは、そういった急性期の病院の受け持ちじゃないというのが考え方なんです。したがって3ヶ月くらいしたらそろそろ退院という話が出て来るのです。ところが、また同じ検査をするというのは、これは利潤追求といわれてもしかたがない部分があるのかもしれません。病院は財政的に大変辛いという事情があるのですが、私はこれは非常に矛盾したことと思っております。 | ||||||||||||||||||||
ただ、国は療養型病院を設置したり、保険の制度を変えることで、もう少し一般の国民の方に納得が出来るように変えつつあるようです。ただ今のところ、私もやり方が余り利口ではないな、と思っております。 | ||||||||||||||||||||
座長:原先生 | ||||||||||||||||||||
まだ、いろいろ質問があると思いますけれども、がんの告知、これは先ほど中西先生がお話しましたように、これは日本でもかなり行われるようになりましたけれども、まだ、総ての人に行われているというわけではありません。告知を受けたことに関する研究が九州がんセンターでも報告されているのですけれども、先ほどスライドでもお見せしましたように告知を受けますと患者さんは、いろいろ心の葛藤を持って、そして、多くの方が受容をされていくらしいですね。 | ||||||||||||||||||||
そして、告知を受けていない人と受けた人とで比較をされていますけれども、告知を受けていない人はいつまでも相手に疑いを持ちながら亡くなっていく。しかし、告知を受けた方、受容をされた方は多くの人が心の平静を持って、そして周囲の方に感謝の意を持って、もし亡くなられても、そういう経過をとる方が多いという報告もなされていますので、私自身としましても告知を絶対しないというよりも、むしろして、その後、周囲の方がケアをすることが非常に大事じゃないかなと思います。【拍手】 | ||||||||||||||||||||
この講演は「第43回日本呼吸器学会」の市民公開講座として平成15年3月16日、福岡市天神のアクロス福岡で開催された『あなたのまわりの呼吸器病、予防・治療・つきあい方』で『安心して温泉を楽しむために―レジオネラ菌の秘密―』『喘息とこころの問題』『睡眠と健康のかかわり』に続いて行われました。 | ||||||||||||||||||||
この原稿編集に当たっては、スライドの資料提供にも快くご承諾いただき、中西先生にお忙しい中を校正までして頂くなど、この「ホットの会」の会報誌のために、多大なるご協力を頂きました。感謝いたします。 尚、転載にはご一報をお願いいたします。 | ||||||||||||||||||||
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