リハビリ棟・ホットの会「医療講演会」 2003.9.26
「こころと体を前向きに」
  国立療養所南福岡病院 心療内科医師 安田広樹先生
     (平成16年4月より名称変更:福岡病院)
目  次
1.心と体 2.ストレスの分類
3.ストレスと身体反応 4.うつ病について
5.うつ病の症状 6.仮面うつ病
7.MINIについて 8.粘着性格
9.うつ病の症例 10.うつ病の治療
11.心を前向きに 12.有病息災のススメ
安田 広樹先生皆さんこんにちは。南福岡病院心療内科の安田です。平成9年からこちらで働いておりますので、何人かは覚えていただいているかもしれません。今日の講演についてご指名をいただいて本当に有難いのですけれども、以前お話をされている古藤先生とか横田先生とか十川先生のように経験も知識もありませんので、力を抜いて気軽に聞いていただければと思います。
今回は心と体との関連をふまえながら、うつ病を中心にした話をさせていただきます。よろしくお願いいたします。

 1.心と体
心と体というものは本来ならば同じものです。同じものというか1人の人間の中に入っているんですから、元は一緒だろうと思うんですけれど、よく話をする時に、心と体というものは別物だと言う扱いをされることがあるのですね。私は心療内科ということで、外来とかで、色んな症状が出てきたときに「何かストレスとかありませんか」とお尋ねすることが結構あります。そうすると「何でストレスのことなんか聞くのですか、関係ないでしょう」と、たまに怒られる方がいらっしゃるのですね。
こちらは、そういう変な意味でお尋ねしているのではないのですけれども、恐らく、今までにストレスとかいうと「あなたの気の持ちようですよ」とか「あなたのせいですよ」というような感じで云われて、傷つけられたりしていることが多いのじゃないかと思うんですよね。それで「ストレスがありませんか」と聞くと怒られるのだと思うんですよ。
こころと体は別のもの?
*ストレスは?と聞くと、怒る人がいる
*「明るい風邪引きはいない」
*「心」も「体」も入っているいれもの
 (一人の人間)は一緒
では、本当に心と体が別なのかというと、風邪を引いたときを皆さん想像していただくといいんですけれど、自分が風邪を引いたときに何となく気分が沈みこむんですよね。「いやぁこの間風邪を引いちゃってねハッハッ」と笑っている人はいるけれども「今、風邪を引いちゃってねハッハッ」と笑っている人は余りいないですよね。風邪を引いていると何となく「あぁ風邪を引いちゃってね。一寸きついんよね」と、話し方も暗くなります。声のトーンも下がってくる。これは当然の動きだろうと思うんですよね。
また、自分にストレスというか、不安なこととか心配なことがあるときは、何となく体の調子も悪いように感じてくる。これは、脳の方から気持ちの方にも影響が行くでしょうし、体の方にも影響が行くということで、それぞれが関連して当然だろうと思うのですね。それで心と体が別のものだという発想は、ちょっとおかしいというか、的を外れているといえるんじゃないかと思います。
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 2.ストレスの分類
「ストレス」とは?
*ストレス:何らかの刺激によって変化した
     (歪んだ)状態
*ストレッサー:ストレスを起こす元の力
※『精神力が弱い』ことを意味する訳ではない
一般的にストレスというのはこれで通るんですけど、ストレスのもともとの言葉の意味は、何らかの力とか刺激が加わって、それが変化した状態ですね。例えば鉄板に力をグッと入れたときに鉄板がグッと曲がる、その曲がった状態のことを「ストレス」といいます。曲げるための力を「ストレッサー」といいます。ストレスを加える原因になるものです。しかし現実には、ストレスという状態とストレスを起こす力のストレッサーの両方を合わせて「ストレス」といわれています。これからの話は分けていうと分かりにくくなりますので、まとめてストレスとして進めます。
上に書いてありますけれども、ストレスはと聞いた時に精神力が悪いとか、弱いだとか、気の持ちようだとか、気が弱いとかということを表している言葉では決してありません。元々、これは物理の方から出てきている言葉ですので、変化した状態とそれを起こす元の力というだけですね。
ストレスの分類
*外的ストレス
 ・身体的ストレス
   気温変化・けが・微生物・花粉など
 ・心理社会的ストレス
   状況変化・喪失体験(自信・人間)など
*内的ストレス
   運動不足・睡眠障害・妊娠など
ストレス、厳密には先ほどの「ストレッサー」ですけれども、これを分類してみると、外から加わってくるストレスと中から加わってくるストレスと大きく2つに分けられます。外から加わってくるストレスということでは体の方に加わってくるストレスと、心理社会的な、精神的な心理的なストレスとに分けられます。
身体的なストレスの一番簡単なのは気温の変化ですね。ここ数日寒くなってきましたので、皆さん体調を崩した方が結構いらっしゃるのですね。風邪を引いたりだとか、呼吸器の方では息苦しくなったり、喘息の発作が出たり、これも体に加わってくるストレスです。
他に怪我をしたりだとか、微生物、ばい菌が入ってきて感染を起こしたりだとか、花粉と書いておりますけれども花粉とかほこりとか、そういうものも体に加わってくるストレス、1つの刺激になります。
心理社会的なストレスといいますと、状況の変化、環境が変わったとかいうことですね。人によっては昇進したということが物凄いストレスになって病気を起こす方もいらっしゃいます。勿論、リストラされたということも、物凄い大きなストレスですね。
他に喪失体験と書いていますけれども、自信を失った、今まで出来ていた仕事が出来なくなったとか、人間の喪失体験ということで身内の人を亡くしたとか、友人が遠くに行ってしまったとか、これも大きなストレスになります。
あと、外からではなくて中から加わってくるストレスでいうと、運動不足とか生活習慣の乱れだとか、眠れないとか、それと女性の方だと妊娠というのも体にとっては刺激という意味でストレスになってきます。
こういったもので、色んなもの、要するに人間に対して何らかの刺激になるものは全てある意味ではストレスになるということですね。勿論、全てが悪いストレスではありません。良いストレスもありますし悪いストレスもありますが、ストレスという意味では一緒です。
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 3.ストレスと身体反応
ストレスと身体反応ということで、さっき話したように心と体は別のものではないと考えて、ストレスが体なり心なりに掛かってくるのであれば、ストレスというもの自体が体の方にも何か影響してくるだろうと考えられるのですね。実際に、ここ2,30年くらいこういうことが医学的にも研究されています。
ストレスと身体反応
* 急性ストレス反応
   胃・十二指腸潰瘍の発生
   胸腺・リンパ節の萎縮
     (免疫力の低下)
   副腎皮質の腫大
     (副腎皮質ホルモンの増加)
急性ストレス反応、これはとっても有名な研究なんですけれども、どういうふうにやったかといいますと、鼠を氷点下何度というところに2日か3日間放って置いたんです。つまり、寒冷、要するに冷たいというストレスにさらされ続けたときに体にどんな変化が起きるのかということをされています。すると、胃や十二指腸が潰瘍だらけになります。また、胸腺とかリンパ腺といったような体の免疫力をつかさどっている部分ですね、その部分が萎縮して小さくなってしまう。恐らくこれはストレスにさらされ続けると免疫力、抵抗力が落ちるだろうと考えられるのです。
もう1つ、副腎皮質というのは副腎皮質ホルモンを作る部分なんですけれども、これが大きくなってきます。これは副腎皮質ホルモンをどんどん体の方が作ろうとするのですね。副腎皮質ホルモンは簡単にいうとステロイドというものになります。体の抵抗力を大量に使うと落とすんですけれども、少量というか、体の反応で出てくる場合には、何らかのストレスが加わってきた時に、それに対抗しようとして出てくるホルモンの1つです。こういったものが増加してきます。これが急性に起こってくる場合ですね。
さっき研究した同じ方が全身適応症候群ということも発表されています。何かというと、慢性的に大きなストレスにさらされ続けた場合に、体の抵抗力がどうなるかということを示したものです。簡単に書いているのですけれども、抵抗力を時間にとって横に見て、抵抗力の強さを上下にとって見ると、折れ曲がった線、これが普段の抵抗力の状態だと思って下さい。
何らかのストレスが掛かってくると最初にショック相といって、ドンと抵抗力が落ちます。ところが外から何か悪いものが来たというので、それに対抗しようと思ってグッと抵抗力が上がってくるのですね。普段よりも何とか抵抗して押しのけようとするのです。そしてズーッと押し続けていく、その間にうまくストレス、刺激がなくなって解決されていけば元通りになりますが、ストレスがずっと解決されないと疲れてしまうのですね。それで体の抵抗力が落ちてくるといったような結果になります。
こういうふうに警告反応期、抵抗期、疲弊期というとややこしそうですけれども、ポンと急に重たいものを載せられたと想像して下さい。そうしたら、最初グッと押されますけれども何とか押しのけようとグッと力を入れるのですね。その間に押しのけられたらいいのですが、そうではないと段々疲れてしまうし、そのうちに潰れてしまうのですね。
同じことが体の抵抗力でも起こります。お話したように心理的なストレスであろうと、外から加わってくる刺激というストレスであろうと、体にとっては同じ刺激ですので同じようなことが起こります。
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 4.うつ病について
今度は急に話が変わりまして、うつ病についてお話をさせていただこうと思うのですけれども、なぜ、うつ病の話をさせていただくかというと、先に見ていただいたように、長期間何らかのストレスが加わってくると最終的に体の方が疲れきってしまって、抵抗力も落ちてしまう。そういったときに起こりやすい病気というのに、うつ病がありますので、このうつ病をテーマに話をさせていただくと、長期間ストレスが掛かってきた時にどうなるのかといったことが大まかに分かっていただけるのではないかなと思います。
うつ病について
*体の中のエネルギーを使い果たした状態
*誰でも罹る可能性のある、ありふれた病気で、
 「こころの風邪」と呼ばれる
*推定有病率は 3%
*軽症を含めると、数人に一人は、一生のうちで、
  一度はうつ病になると考えられている
それともう1つ、うつ病というのは、ここにも書いてありますが、とても、ありふれた病気なんですね。うつ病と聞くと心理的なものとか気の持ちようだというような誤解があったりしますので、それで、うつ病とかそういったこと心当たりはないですかと聞くと、とんでもないといわれる方が結構いらっしゃるんですけれども、ところが、推定有病率3%、日本の人口で考えると三百何十万人いるだろうというのです。しかも、うつ病に掛かっている人がです。それくらいありふれた病気です。糖尿病が約五百万人くらいと推定されていますので、糖尿病とそう大きく変わらないくらい有病率があるのです。
「糖尿病はどうですか」といっても、誰も怒らないのですが「うつ病どうですか」というと、結構怒られるのですね。だから、その辺で誤解があるんではなかろうかと思います。
 そこにも書いてありますように誰でも掛かるありふれた病気なので「こころの風邪」といわれたりもします。今現在でとってみると三百何十万人うつ病の方がいるだろうと云われていますけれども、今度は一生のうちでと考えますと、数人に1人、多い場合は2人に1人は一生のうちのある期間はうつ病になるだろうと推定されているくらい、ありふれた病気で、誰でも掛かります。
うつ病というのは先ほどお話したように、色んなストレスが掛かったりだとか、疲れきったりして体の抵抗力とか、簡単にいえばエネルギーが切れてしまったという状況の時になってくるのですけれども、それは本当に心理的なものだけかというと、それだけではなくて、脳の中でも明らかな変化が起こっています。
 
簡単な絵で申し訳ないんですけれども、脳の中に大体1,000億くらいの神経細胞があると考えられています。神経細胞というのは人がそれぞれ、両手を広げて立っているような状況を考えていただいたらいいのです。真ん中に核があって、その周りに樹状突起といってそれぞれの神経どうしが手を延ばしていって、隣の神経と直接触らずに、ちょこっと間を開けて隣と接しているという状態です。その間を何らかの信号を伝えなければいけないというような時には、1つの神経の突起のところと、神経と神経の間の部分に神経伝達物質というものを放出します。ポンと出してくるんですね。そうすると隣の細胞が神経伝達物質を感じ取って伝わっていくということになります。
ところが、うつ病の方の場合は、この神経伝達物質が何らかの原因で少なくなっているのです。少なくなっているのでうまく神経どうしの連絡がいかなくなっている。そうすると気分が落ち込んで来たりとか、何もやる気がなくなったりと云った症状が出て来るというふうに考えられています。
こういう研究がされるまでは、本当に心理的なものだろうとか、性格的なものだろうというふうに考えられていたんですけれども、実際に研究してみると脳の方で変化が起こって来ている。今度は逆に神経伝達物質が少なくなっているんだから、それを増やすような薬を使ってやれば良くなることも分かってきました。実際に抗うつ薬というのはこの辺を中心に働くように作られている薬ですけれども、実際に使ってみるとかなりの方が良くなるのですね、お薬を使うだけで。
ですから、うつ病というものに関して、ほかの病気もそうですけれども、ただ単に気持ちの変化が起こっているだけでなくて体の変化も両方伴って起こって来るもんだと、ほかの病気と同じように有効な治療薬がある種類の病気なんだ、ということが分かって来ました。
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 5.うつ病の症状
うつ病の症状ということで話をさせていただきます。どんな症状が出てくるかですが、いわゆる心理的な症状、気持ちで感じる部分の症状が強く出てくるのは確かです。一番大きいのは抑うつ気分ですね。一日中悲しいとかむなしいとか云うふうな感じですね。お尋ねすると一日中落ち込んでしまっていますとか、何をしてもむなしいと思うんですとか、あと、日内変動といいまして、朝方とか午前中調子が悪くて夕方になってくると元気になってくるという症状も多いんですね。午前中は何もする気もなくきついんですけれども、午後になると少し元気が出てくるので、少し身の回りのことができるんですと言われる方がいらっしゃいます。
うつ病の診断基準
 以下の症状のうち5つ以上が同じ2週間の間に存在
 ・抑うつ気分
 ・興味や喜びの減退
 ・意図しない体重変化(体重減少が多い)
 ・睡眠障害(不足ないし過多)
 ・焦燥または制止
 ・気力の減退や易疲労性
 ・無価値感
 ・集中力の減退
 ・自殺念慮
つぎに、興味と喜びの減退ということで、以前楽しめていたことが、全然楽しめなくなった。お尋ねする時に、テレビを見ていて楽しいと思いますかとか、朝、新聞を読んでいてどうですかとか、以前本を読んでいた方だったら、本を読んでいて面白いと思いますか、と聞くんですね。興味といっても本当すごく些細なことで、そういったことすらも楽しめなくなってくる、やる気が無くなってくるという症状が出て来ます。だから、テレビを見ていてもちっとも面白くないんですとか、何をしていても全然楽しくないんですということになります。
あとは、体重変化ということで、特に痩せようと思ってないのに痩せて来る、若しくは太ろうと思ってないのに太って来るというようなことも起こってきます。基本的には、これは食欲がわかなくなって来るからなんですね。だから、一日3食食べているけれども、一口か二口食べるともうお腹が一杯で食べたく無くなりますという方も結構多いです。食欲が全くわかないので空腹じゃないのだけれど食事の時間だからとか、薬を飲まなければいけないから、詰め込むように二口三口食べているんですという方もいらっしゃるんです。これも、脳のなかで意欲が無くなって来るということで、食事をするということはある程度エネルギーを使うことですので、それすらもやりたくなって来るのですね。
あとは眠れなくなってきます。結構外来に通っていらっしゃる方は睡眠薬とか必要な方が多いんですけれど、その中の一部はやはり、うつ病が関わっているだろうと思います。睡眠薬とかお酒を飲まないと眠れないという症状ですね。これが無いと全く眠れないとか、若しくは睡眠薬とかを使って一寸は眠れるんだけれども、朝の3時とか4時くらいに目が覚めて、その後眠ろうと思うんだけれど全く眠れません。
じゃ、昼間よく寝たと思いますかと聞くと、何となく寝てない気がするから、ずっとボーッとしているんです。眠れないからきっと元気が出ないんだと思いますと云うふうにつながって来る方もいらっしゃるんですね。不眠は多くの場合がうつ病と関わって来ているので、うつ病の治療をしていくと睡眠薬を止められたという方も結構あります。
あとは焦燥または静止ということで、何となくイライラしてくる。もしくは何となく何にもする気が無くなって億劫になってくる。極端な方になると喋ること、動くことすら嫌になって来て、家の中に引き篭もってしまって、誰とも喋らないといったことになって来ます。
あとは気力の減退とか、疲れやすい、何もする気になれない、前に比べたら疲れやすくなる。そういうことが起こってくると、自分自身が価値の無いように思えてくるんですね。自分なんか社会にとってとか、家族にとって全く必要の無い人間なんだと思います。自分が生きていたって誰の役にも立てないと思います。そういうふうに云われます。仕事をされている方だと、自分なんか会社にいたって居なくたっていいんです。とそういうふうなことを云われます。
あとは集中力が減退してくるということで、物事を考えたりすることが難しくなって来て、忘れっぽくなって来ると云われたりとかですね、決断をつけられなくなってくる。そういうふうに云われたりします。
最後に、これが一番心配なところなんですけれども、うつ病に掛かって来ると、多くの方が死にたいと思うようになってくるのですね。実際に毎日のように、もう死んでしまおうと思ったりだとか、実際に何時、何処でどうやって死のうとか、具体的に考えたりする方もいます。実際に自殺をされる方のかなり多くの方が、うつ病だろうという風に想像されています。
こういった幾つかの症状を上げさせていただいたのですけれども、これは1個1個見ていくと何かややこしそうなんですけれども、どれも考えてみると、自分の中のエネルギーを使い果たしてしまって、何もやる気力も出てこないし、しようとも思わない。で、何もしようと思えなくなって来るので、自分自身が価値の無い人間だと思って、もう死んでしまってもいいじゃないかと思えてくるんですね。ところが、さっきお話したようにこういった変化というのは、脳の中である一定の異常が起こってきて起こる病気ですので、そのためにマイナス志向になっていくんですね。もう何も出来ない。だったら自分なんかもうどうでもいいんだ、死んでしまってもいいんだと思うんですけれども、これは全部病気のせいでそういうふうに思わされているんです。だから、病気がよくなってくると何であんなことを考えていたのか分からないというんですね。
ですから、うつ病の症状というのを羅列させていただいたんですけれども、人間にストレスが掛かってきて元気が無くなって来ると、どんどんマイナス志向とか狭いものの考え方しか出来なくなってしまいます。火事の時に逃げ出そうとして、扉を手前に引けば逃げれるんですが、パニックになって、ずっと押し続ける。それで煙にまかれて亡くなってしまうという有名なエピソードがあるんです。
そういうふうに大きなストレスが掛かって来ると人間の考えというか志向というのは単純化してきて、固定してきて融通が利かなくなって来ます。すると、より悪い方に進んでいくという流れができるという心理学で有名な話なんです。
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 6.仮面うつ病
もう一つ皆さんに知っておいていただければと思うのに、仮面うつ病というものがあります。精神症状よりも身体症状の方が前面に出てくるようなタイプのことを、通称でこういうふうに云っているのですね。マスクされた、隠されたうつ病ということです。特に先ほどの意欲がないだとか落ち込んでいるという症状よりも、頭が痛いだとか肩こりがするとか疲れやすいといった体への症状が中心になって出て来ます。どちらかと言うと、元々病気がない方よりも何か病気を抱えている方のほうがこういう病気は出てきやすいようです。 
仮面うつ病
*うつ病の精神症状よりも身体症状が
  前面に出てくる
(頭痛、肩こり、不眠、疲労感など)
*「不定愁訴」とか「精神的なもの」と言われ、
  うつ病と気づかれにくい
*本人も、「体が悪いlと思いこんでしまって
  いることもある」
毎日のように頭痛がするので病院に行くんですね。そうすると、いろいろ検査をされた結果、原因が分からないですから、「精神的なものじゃないですか」とか、「不定愁訴ですから気にしないでいいですよ」、などと言われるのですね。ところが本人は、頭が痛くて来ているのに気にしなくていいですよとはどうなんだろう。「精神的なものということは、私が悪いということですか」というようなことで、ある意味では傷つけられてしまって、なかなか本来のうつの状態ということに気付かれずに、どんどん落ち込んでしまうということもあります。本人も、気持ちが落ち込んでいるとか、眠れないとか、集中力が無いとか、そういった症状があるのですけれども、それに気付かずに頭痛とか肩こりとかいった症状にこだわっているというか、気になっているものですから、うつ病だと思わないということがあります。
身体症状との合併
*癌、脳卒中、糖尿病などに合併していることがある
*呼吸器疾患も、うつ病を合併しうる
     呼吸苦→活動範囲の減少→
             ひきこもり→抑うつ気分
今の仮面うつ病と少し重なってくるのですけれども、元々病気のある方にうつ病というのは多いです。先ほどお話したようにストレスというのは、極端に言うと何でもかんでもストレスになる。体に病気を持っているということだけでストレスになります。それが原因というか、きっかけになってうつ病になってくる。
一番研究が進んでいるのは癌ですね。癌の方は2,3割くらいうつ病を合併しているんじゃないかと言われています。そのほかにも脳卒中でうつ病になってくる方、脳卒中の場合には痴呆の症状とうつ病の症状、先ほどの忘れっぽくなって来るとか集中力が無くなって来るということは似ていますので、一緒になって気付かれないことが多いですね。
ここは、ホットの会ということで呼吸器の疾患の方が多いと思いますが、これもうつ病に充分関連してきます。例えば酸素をしなければいけないということ。少し動くと息苦しくなるので余り動かなくなるのですね。そうすると段々家の中ばかりに閉じこもって、引き篭もるようになると誰とも喋らなくなって、気持ちが更に落ち込んできているということで、うつ病になりやすいともいえます。
今のことと少し関連するんですけれども、体に何か症状がある方、どこかが痛いだとか、張るだとか、そういった症状がある方、勿論息苦しい方もそうですけれども、体にどこか調子の悪いところがあると不安になってきますね、不安になってくるとその部分に意識を集中してしまう。そうするとさらに症状が強く感じるということがあります。
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 7.MINIについて
繰り返しになりますけれど、うつ病の診断基準として、先ほど9つあげた項目の5個以上が2週間以上続いている場合をうつ病というふうに診断します。しかし、この9つを皆さん全部覚えて帰ってくださいというわけに行きませんので、診断基準はこうなんですけれども、簡単に知っておいていただければというのは2つだけです。MINIという簡単な質問があります。これはうつ病などを短時間で見つけるのに有効と考えられている質問票なのですが、この最初の2つの質問に「はい」と答えるようであれば、うつ病の可能性があるということです。
MINI
・この2週間以上毎日のように、ほとんど1日中
 ずっと憂鬱だったり、沈んだ気持ちでいた
・この2週間以上、ほとんどのことに興味が持て
 なくなっていたり、大抵いつも楽しめていたこ
 とが楽しめなくなっていた
 どちらか1つでも「はい」ならば、うつ病の可能性
まず、この「2週間以上毎日のように、殆んど1日中ズーッと憂鬱であったりとか沈んだ気持ちでいましたか。」というのが1つです。殆んど1日中毎日のように、それが2週間以上続いたということです。1日,2日沈んだり憂鬱であったり、これはもう普通です。ところが、それが2週間以上続けばそれはちょっと気になるぞということです。
もう1つが、「2週間以上殆んどのことに興味が持てなくなったりとか、普段だったら楽しめていたことが楽しめなくなった。」この2つです。どちらかにハイと答えられるような方であれば、もしかしたらうつ病の可能性があるかも知れません。一時的なものというのは2週間以上はなかなか続かないですからね。2週間以上続くということは、脳の方にも変化が起こって来ている可能性がありますよ、というサインになります。心当たりがある方がいらっしゃれば一応受診していただけたらと思います。
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 8.粘着性格
うつ病にどういった性格の方がなりやすいかということで、一般的によく言われているのは、粘着性格といって非常にこだわる性格の方ですね。完璧主義で正直で正義感が強くて責任感が強くて非常に真面目な方、こういう方がいけないといっているわけではないのですよ。唯、完璧に何でもやろうと思うとですね、やり過ぎになってしまうのですね。途中でうまく手を抜くことが出来ずに、自分の体がバテてしまうまで、エネルギーを使い果たすまで突っ走ってしまう。そうするとオーバーヒートしてうつ病になってしまい易いということです。
勿論、こういう性格の人が全員なるということではないし、こういう性格でないから絶対ならないと言う事ではないのですが、うつ病の方の性格を見ていくと、どちらかと言うと、真面目な方、優等生の方が多いように感じます。
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 9.うつ病の症例
今回、ホットの会でお話をさせていただきますので、在宅酸素療法をされている方でうつ病を合併したということで1つ例を出させていただきます。多少、本人が分からないように変えていますけれども、72歳の女性で1年前に結核の後遺症ということで在宅酸素療法を開始になっています。
症 例
72歳、女性
1年前に、在宅酸素療法開始。それまでは職場で
現役で働き、1人暮らしをしていた。
3ヶ月前に軽い脳卒中を発症。後遺症は残らなかったが、その後「1人の時に脳卒中を起こしてそのまま死んでしまうのではないか」という不安や呼吸困難感が強くなった。
当院に入院したが、酸素1LでSpO2が98〜99%であり、その他身体所見に変化はみられなかった。
それまではズーッと職場で現役で働いていて、一人暮らしで何でも出来るという方だったのです。70過ぎてまで1人でできるということですから、しっかりした元気のある真面目な方だろうと思います。
ところが、在宅酸素療法が始まって3ケ月位してから軽い脳卒中、これは意識が無くなって病院に入院はされたんですけれども、全く後遺症を残すことなく回復はされています。ところが、1人の時にご自宅で脳卒中を発症されましたので、その後、また脳卒中を起こして誰にも見つからずに、そのまま死んでしまうのではないかという不安が非常に強くなってきました。
それ以降くらいから、在宅酸素療法を始めて呼吸状態は全く変化はなかったにもかかわらず、すごく息苦しさが強くなって何をしていても息苦しい、家を1歩でも出たら息苦しいから家を出られません、ということで入院されました。
入院されて体のほうを調べてみると、酸素を1L吸っていて指で測るSpO2が98〜99%ということで、充分過ぎるくらい酸素の方は体の中に入っているんですけれども、息苦しいというふうな症状が続いていました。
当初の訴えは、
「少しでも動くと息苦しい」「胃が痛む」
「酸素がなくなったら、すぐに具合が悪くなる」
「夜も息苦しくて眠れない」
「朝は体が冷えて、昼を過ぎるとようやく
  体が温まって 調子が良くなる」
「また脳卒中を起こしそうで、心配」
など、身体症状が中心。
最初のほうの訴えをお伺いすると、「少しでも動くと息苦しい。」とか「胃が痛くて何も食べられない。」「酸素が無くなったらすぐに具合が悪くなってしまう。」「夜も息苦しいから眠れないんです。」「朝は体が冷えて、昼を過ぎると体が温まって来て体を少しは動かせるようになるのですが、朝のうちは体が冷たくて全然動けません。」「また脳卒中を起こしてしまいそうで心配なんです。一人暮らしなんか出来ないんじゃないでしょうか。」と訴えられるんです。
これだけ聞いてくると、本当に体のほうが悪いのかなと思うんですけど、色々と調べてみても、殆んど変化をしていないというかいい状態を保っているのですね。最初は、「私はこれからまた色々やりたいことがあるのです」というようなことを云われていたので、意欲の低下は目立たないから、うつ病でないのではないかなと思っていたんですけれども、どうしても体の症状にとらわれていたので、少しずつ話をお伺いしていくと、やる気が出てこないんですとか、落ち込んでしまっていますとか、眠れませんとか、うつ病の症状がやはりありました。
最初の半月くらいはこの症状が目立たなかったので薬を使わなかったのですが、その後、うつ病かもしれないということで抗うつ薬を始めて、また、しっかり休んで下さい、うつ病というのは体のエネルギーを使い果たしたような状態ですから、しっかり休んで、そのエネルギーをもう1回蓄えましょう。というようなことを話していきました。すると、入院した当初はテレビをつけているんですけど、全く見ていないんですね。何やっているかも分からなかったんですけれども、徐々に、昨日は何時までテレビを見ていましたとか、何となく元気になってきました。1人で生活できるんじゃないかと思います。というようなことを云われるようになりました。
初めは意欲の低下などが目立たず、うつ病ではないと考えていたが、少しずつ話を伺うと、気力低下・抑うつ気分・不眠・などのうつ病の症状が判明。
抗うつ薬の投与と安静、カウンセリングなどを行っていくと、徐々にテレビを見たり、将来希望を話すようになり、また身体症状へのこだわりが減少した。特に酸素がはずれると毎回パニックになっていたが、その症状がなくなった(身体所見はこの間ほとんど変化なし)。
現在は、元気に一人暮らしをされ、酸素療法も労作時のみとなっている。
また、入院中に酸素を吸っていたのですけれど、最初はそれが一寸ずれただけで、「あぁもう、危ない。自分はもう死んでしまうかも知れない。」と、物凄くパニックになっていたのですが、うつ病が良くなるにつれて、酸素が外れていても、「あっ、外れていましたね。」と、余り気にされなくなったのですね。実際に酸素を測ってみると、酸素が外れていてもSpO2が90%以上を保っていることが多かったのですね。
在宅酸素療法もこの方の場合はご本人さんの不安感とか息苦しさが強かったために早めに始められたようですね。ところが、うつ病の方がよくなってこられると、呼吸状態はある程度よかったので、この方の場合はいらなくなってきた。今現在、入院されてから半年くらい経ったところですが、酸素のほうは入院中は一寸外れても不安だといわれていたのが、今は酸素なしで普段生活していて、買い物に行くときだけ酸素していますというくらい、非常によくなっている。この方の場合、まだ呼吸器の機能がよかったので酸素をそんなに長時間しなくて良かったものが、本人の不安感とか症状が強かったために酸素をせざるを得なかった。その症状が無くなったので酸素をはずすことができました。
この方の場合もそうですけれども、病気に関連した症状が強く出てくるので中々分かりにくいです。ですから、私たちもそうですけれど、皆さんも自分の気持ちというのは今どうなんだろうかとか、落着いているんだろうかということも気を配っていただければと思います。
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 10.うつ病の治療
うつ病の治療
*休養
   まずは、使い果たしてしまったエネルギーを蓄える
*薬物療法
   脳内で枯渇した神経伝達物質を補う
*環境調整
  「やりすぎない」状況や周囲の理解を得る
もう1つは、さっきお話した薬物療法ということで、脳の中の神経伝達物質を補うようなお薬を使います。勿論、休養だけでもうつ病は大抵の方が治るといわれているのですけれども、休養だけだと年単位掛かるんです。その治るまでの間、ずっときつい思いをしなければならないので、薬を使って、回復するスピードを早くしましょうということで治療をしていきますね。それをしていくと、ちゃんと元気になりますし必ず良くなる種類の病気です。
うつ病というのは、気の持ちようとか、その人が弱いから起こってくる病気ではなくて、何らかの原因によって力を使い果たしてしまったという病気です。先ほどお話しましたように、少しやりすぎてしまう傾向がありますので、やり過ぎないような状況とか、周りの方の理解を得たりといったような、環境を整えるといったことがあります。
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 11.心を前向きに
今までが一応、うつ病についてお話をさせていただいたのですが、このままでは、題名の「前向きに」といったところが余り出てきませんので、じゃあ、具体的にどんなことをしましょうかということで、幾つか提案をさせていただこうと思います。
特に、病気を抱えていらっしゃる方は病気のこと、将来のこと、生活のことなど、非常に不安だろうと思います。その時に、今の世の中は色んな情報があふれているのですね。いい情報からわけの分からない情報、まして、場合によっては商売を目的にしたニセの情報、ウソのとは言いませんけれどもニセの情報が結構あふれています。その中に振り回されてしまうという方が結構あります。
酸素をされている方とか酸素を将来使うという方で、よく言われるのは「酸素をしたらもう終わりなんでしょ」とか「もう末期なんでしょう」といわれる方も時々居られるのですね。
正しい情報を得よう
「酸素をしたらもう終わり」
「酸素によって、寿命も延びるし
 日常生活も楽に過ごしやすい」
☆うつ病は「気の持ちよう」
ではなく必ず治る「病気」
「ところが、そんなことはなくて酸素をしていただくというのは、心臓に掛かってくる負担を減らしてあげて、今後の寿命とか元気に過ごせる期間を長くするためのものなんですよ」とお伝えするんですが、それでも「酸素って1度したら一生しなければいけないんでしょう」とか「もう何も出来なくなるんでしょう」とかいうふうに言われる方がいます。
恐らくこれも、どこかでそういうふうに言われてたりとか、見聞きしたりしているのだろうと思うのです。それで、それは違うのですよとお話ししてもなかなか納得されない。それで却って酸欠できつい思いをされていたりします。だから、正しい情報を持つことが大事です。
うつ病も、気の持ちようということではなくて、必ず治る種類の病気ですので、治れば、先はどお話していた症状なんかもなくなってしまうものですので、そういうことを知っておいていただきたいなと思います。
医者を上手く活用しよう
*知りたいことをメモして、聞く
  (でも、1回に1〜2個ぐらいが助かります)
*入院中はチャンス
「何でもおまかせ」でなく、自分が良い
生活を出来るためのアドバイザーにする
あと、医者を活用しようということなんですけれども、1番下に書いてありますね。これは時々なんですけれども、この治療をどうしましょうとか、こういうふうに考えているんですけれどもどうしましょうかと話をすると、「全てお任せします」という方がいらっしゃるんですね。そういうふうに言っていただけること自体は有難いことなのかもしれないのですけれども、やはり、ご自分の体のことだろうと思うのですね。最終的にはご自分がある程度納得していただいて、理解していただいて、治療を受けるとか受けないとかを考えていただきたいと思います。全部お任せしてしまうよりは、ちゃんと話をして、分からないことは聞いて納得して決断したほうがよいと思います。そのために私たち医療者がいるんだと思います。
私たちは、本人に代わって治療をするとか、体をいじるということではなくて、本人が少しでもいい方向に向いてもらうためのアドバイスをしたり、知恵を出したりとか薬を出したりとかしているのです。そのためには、外来でいらっしゃる時に、分からないことがあったら、メモをして、聞いていただくということが、非常に大事です。
でも、外来の時間って、結構限られていますからね。ノートいっぱい書いていらっしゃる方が時々いらっしゃるのです。そうすると、すみませんけれど今日は1個か2個にして下さいと言わざるを得なくなります。勿論、知りたいことが一杯あることはよくわかります。ところが、それを1人の方にやっていると、多分、午前中3,4時間かかって2人か3人しか診られないですね。残りの方が不公平になってしまいますので、1回に1個か2個だったら聞けますので、1つずつ、自分が一番知りたいと思うことから聞いていただければいいんじゃないかなぁと思います。
勿論、こういうことだけじゃなくて、色んな本を読んだりとか、講習会に出たりだとか、そういったことは非常に大事なことです。自分で情報を仕入れて、自分の病気がどういう種類のものなのか、どういうことに気をつけなければいけないか、ということを知っておいていただければと思います。
特に入院中は外来と違って、時間制限は殆んどないですから、そういう時に、まとめて聞くということが大事ですね。外来だと5分位経つと、私たちも、次の人が待っているから、そろそろ終えなきゃならないじゃないかと、何となくプレッシャーが掛かってきます。入院中はそういったことがありませんので、そういう機会をうまく使っていただければと思います。
次は、前向きに捉えましょう。これですね。同じことなんですけれども、前向きに捉えるか、否定的に後ろ向きに捉えるがは全然違ってきます。酸素のことですね。酸素をしているから外出も出来ないといわれるんですけれども、そうじゃないんですよ、今までは病院でしか酸素が出来なかったのが、家で酸素が出来るようになったんですよ。酸素があるから、もう安心して外出が出来るじゃないですか、というふうに言い換えます。それだけで気持ちが大分変わってくるのです。
物事、状況を前向きに捉えよう
*「酸素をしているから、もう外出できない」
 「酸素があるから、安心して外出できる」
*「体調が悪いから仕事が半分しか出来なかった」
 「体調が悪いのに、半分も仕事が出来た」
☆「良いこと探し」をする
また、「体調が悪いから今日は仕事が半分しか来なかった。なんて自分は情けないんだろう。」と言われるんですけれど、「体調が悪いのに仕事が半分も出来たんですか凄いですね。」と言い換えます。中身は全く一緒です。でも、否定的に捉えてしまうと自分をどんどん追い込んでしまって、何も出来ない、無価値な人間と、つい考えてしまうのです。
逆に切り替えてやれば、やっていることは一緒でも、非常によく自分のことをほめてあげる事が出来るのですね。だから、物事は悪い面ではなくて、良い面を探していただければと思います。物事の悪い面というのは探さなくても、いくらでも思いつくのですよね。是非、今日1日何かいいことあったかな。何が楽しめたかな。と思っていただくと、少しずつ、それが積み重なって自分自身をほめてあげることが出来ます。
自分自身を人と比べて、けなしたりする人は全くないと思います。その人その人自身に価値感がありますし、ちゃんとした能力があるわけですから、自分はこんなことが出来たんだとか、こんなに前向きに過ごしているんだということを、是非こころに留めていただければと思います。
「まあ、いいや」も大切
*「すべてのことを完璧に」と思うと、とっても
  疲れるし、自分をかえって苦しめてしまう
*忙しいときほど、「まあ、いいや」と力を抜く
*休養を充分にとる(メリハリをつける)
あと、「まあいいや」と思うこと、これもとっても大事です。全て「まあいいや」になってしまうと、とっても怠け者になってしまいますけれども、全てのことを完璧に1から10まで抜かりなくやっていくと、やっぱりそのうちに疲れて来る。1から10までやろうと思って、1から9.5までしか出来ないと、0.5で責めるんですね。9.5できているじゃぁないですかといっても、それでも0.5できなかったと思ってしまう。でも、それじゃぁ疲れますし、自分がダメだったというように追い込んでしまいます。
そうではなくて、「今日は疲れているからいいじゃないか。」とか、「今日は一寸体調が悪いからこの辺にしとこうよ、また明日頑張ればいいや。」というふうに思っていただく、それでだいぶ違うと思うんです。
あとは、一生懸命やる時とだいぶ力を抜く時とのメリハリをつけていただく。ずっとやり続けるときついですし、かといって、ずっと休み続けると何もしないことになってしまいますのでメリハリをつけてください。また、自分1人で抱え込み過ぎないようにして下さい。
自分一人で抱え込み過ぎない
*頑張るのは大切なことだけれど「自分さえ
  頑張れば何とかなる」と考えるのは 危険
*上手に周りの人と助け合うことも重要
*「おかしい」と思ったら、早めに病院に相談する
非常に頑張られる方、さっきお話したように、うつ病になりやすいような方とかストレスを抱えやすい方というのは、頑張り過ぎて何でも自分でやろうとしてしまう。でも、何でも自分でするんじゃなくて、自分が不得意なところ、やりづらいところは人にお願いしたって、決して悪いことじゃないと思うんですね。自分1人で抱え込みすぎる方というのは、逆に他の人の仕事も一杯抱え込んでいるのですね。で、人からは頼まれるけれど自分は頼まない。そうすると、どんどん仕事が増えてくる、追い詰められるということになる。ですから、色んな人と助け合うということが大事だと思います。押し付けすぎてもダメですけれども、全部自分で抱えすぎてもダメです。
で、おかしいと思ったら早めに病院に相談してください。うつ病になってしまうと、一人だけで治すのは難しいです。うつ病の場合は、脳の方にも変化が起こって来ていて、考えも偏りがちになりますので、自分1人で抜け出すというのが難しくなってきます。そういう時には、きちんと病院とかで相談していただくことがとても大事です。
原因探しは 止めよう
「〜が悪い」「〜が原因だ」と言っても
なかなか解決には繋がらない
過去のマイナス面を振り返るくらいなら、
今後の改善点を考えよう
次ですが、原因探しは止めましょう。自分がこうなったのは何々が原因だろうとか、よく考えられるんですね。特に、人間関係が多いです。家族がうまくいかないのはお父さんが悪い、お母さんが悪い、子供が悪い。そうすると言われたほうはカチンと来ますから、いやお前が悪いんだと言い返すんですね。もっと関係が悪くなってきます。
でも、誰が原因だと誰に分かるんでしょうか。もしかしたら自分が少し考え方がずれていたせいで相手とうまくいかなかっただけかとも思うんですね。それを誰が原因かを探していくと、原因だと言われたほうはウンザリして来ますし、自分も人のせいにしているから何にもしなくなるんですね。「お前のせいだから、私は何もしないよ」ということになってきますので、全然話が前に進みません。それよりも「過去のマイナスを振り返るよりも今後どうしたらいいかを考えた方がいいじゃないですか、気が落ち込むだけですから」ということですね。
これを云ったら悪いかも知れませんけれど、時々ですね、親の育て方が悪いんですとか言われることがあるんですね。それが、今現在、本人が5才位だったら育て方が悪いといわれても仕方がないなと思うんですけれども、30とか40とかなって、親の育て方が悪かったといっても、いまさら振り返れないんですよね。いまさら、そういうことを言われてもしようがないので、それより、今出来ることをしましょう。
他人を変えるのは難しい
人間関係で「相手が悪い」と考えても、
それを変化させるのは難しい
相手の感情はコントロールできないが、
自分の感情はコントロール出来る
これに関連していますけれど、人を変えるのは難しいです。人間関係で相手が悪いんだ、お前何とかしろよお前が悪いんだよ、と言ってもなかなか相手は変わりません。ただ自分が腹が立つだけです。相手の感情とか、相手が自分のことをどう思っているかなんて、相手にしか分からないんです。
それに対して、相手が悪く思っているのじゃないか、よく思われていないんじゃないかと思って、相手の気に入るように何とかしようとやっていくと、とても疲れます。でも、自分の感情はある程度コントロールできます。「この人に変に思われているのじゃないかと思って、それを気にする」のか、「この人とはそりが合わないだけだから他の人とうまくやろう」と思うか、これは自分でコントロールできるんですね。ところが、相手に好きになってもらうというのは、凄く大変なことです。だから、相手のことを変えるというよりは、自分を切り替えていった方がよっぽど良いのではないかと思います。
趣味(楽しめること)を持とう
*自分が気軽に楽しめることを持つ
*もともと自分が好きだったものを
  目安に探してみる
*他の人と一緒に楽しめると、もっと良い
*でも、ゴロ寝も立派な趣味
後は、趣味を持つということがとても大事なことです。特に気軽に楽しめることですね。病気を抱えていると、趣味は何にもありませんし、何も楽しいことはないですと言われますが、「散歩をするだけでもいいじゃないですか」とか「ホットの会に参加して、バスハイクに行くだけでもいいじゃないですか」とお話しします。そういう楽しみがあるというだけで全然違うのですね。
それで、出来れば他の人と一緒に楽しめて、なおかつ、若いときに楽しんでいたもの、例えば、むかし手芸が好きだったら、もう1回手芸をして見ましょうとか、読書が好きだったらそれをしてみましょうよといったことでいいです。なるべく、そういうふうに楽しめることがあったほうがいいです。でも、全く楽しみがなくて、僕は寝ているのが好きですと言うのであれば、それでかまいません。寝ているのが好きなのに、あえて体を動かして、余計にストレスを溜めることはありません。とくかく自分が1番楽に、楽しめることを1つでも2つでも持つことはとても大事なことです。メリハリをつけるということにもなりますしね。
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 12.有病息災のススメ
有病息災のススメ
「元気」= 病気がないこと??
「病気中心」ではなく、
   「生活・楽しみ中心」へ
最後になりますけれども、「無病息災」と言うことを云われているのですけれども、別に「有病息災」でいいじゃないですか。元気と言うのは、必ずしも「病気がないこと  =元気」ではないと思うんです。自分が元気とか幸せと感じられることだろうと思うんですよ。病気があるから自分が元気じゃぁないということではないのです。こういう生活が出来ているからとか、こういう楽しみがあるから元気ですと言っていただくのが、よほど良いことだと思うのです。
ですから、病気があるからだとか、病気のせいでと言うのでなく、自分で出来ることを楽しみましょう。勿論、酸素をしている方を見ていると、私たちが想像できないくらいに、普段でもきつい目とか不便な目にあっているだろうと思います。でも、酸素をしているからと悲観的な人生を生きるのと、酸素をしていても、少しでも前向きに人生を生きるのとでは、例え同じ期間であっても、随分違うと思うんですね。ですから、少しでも前向きになっていただいて、病気にとらわれてしまうのではなく、自分がしたいこと楽しいことをメインに考えていただければ、気持ちも体も変わってくるだろうと思います。
酸素の方ではなくて、癌の方とかに「笑い療法」をされてある方があるのですね。末期の癌の方に色んな劇を見たり漫才を聞きに行ったりとかで、しょっちゅう笑ってもらうという治療をしている方がいて、実際に末期癌の一部の方で良くなったという変化も起きたりしているようです。それは、同じ病気であったとしても、こころの捉え方次第で健康力も変わってきますし、ご自分の症状とか体調自体も変わってくるものだろうと思いますので、病気を抱えていらっしゃっても少しでも元気でいられればなぁと思います。有難うございました。 《拍手》
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