◇ 平成15年度 福岡市呼吸器講演会 ◇
2003.11.19 あいれふ(福岡市健康づくりセンター)
「呼吸不全の診断とくすりの話」
国立療養所 福岡東病院 臨床研究部長 岩永知秋先生
(現在) 国立病院機構 福岡病院 院長
はじめに
岩永 知秋先生福岡東病院の岩永です。私は、10年ほど南区屋形原にあります南福岡病院で勤務しまして、この中にも沢山顔見知りの方がいらっしゃいます。2年ほど前から、現在の福岡東病院の方に勤務しています。今日は呼吸不全の話ということで、どちらかというとお薬を中心にした話をしていきたいと思います。
◇ 目  次 ◇
 【1】 呼吸不全の診断
 【2】 呼吸不全の治療
 【3】 薬物治療(安定期,増悪期)
 【質問1〜8】
 
【1】 呼吸不全の診断
 1-1.呼吸と鼻の働き  1-2.気管支
 1-3.肺胞  1-4.COPD
 1-5.呼吸不全  1-6.血液ガス:酸素分圧
 1-7.パスルオキシメーター  1-8.酸素分圧と酸素飽和度
 1-9.炭酸ガス  1-10.呼吸機能検査
 1-11.呼吸不全の診断 --------

 1-1.呼吸と鼻の働き
私たちは呼吸という運動、つまり息を吸ったり吐いたりしています。どうしてそういうことをしているかというと、体の中に酸素を取り込むためです。
じゃぁどうやって取り込んでいるかというと鼻や口から息をしています。風邪を引いたときを考えると分かると思いますが、鼻が詰まってしまうと口だけの呼吸になります。鼻というのは非常に大切でして、この中で加湿、水分を与えているのです。息を吸い込む時に乾いた空気を吸って、そのまま入ってきますと気管支の粘膜を痛める。それを防ぐために鼻の中で水分を与える仕組みがあって、それで、私たちは水分で潤った空気を吸うことによって気管支の粘膜を守りながら、空気の中の酸素を取り入れているのです。

 1-2.気管支
気管支というのは空気の通り道ですが、気管支にもそれぞれ役割があります。例えば、いろんなばい菌が入ってきたらそれを防ぐ役割とか、或いは痰が出てくると、それを外に押し出す仕組みですね。それがないとばい菌がそのままくっついたり、或いは痰が詰まったりします。然しながら、私たちが必要な酸素を取り入れるという意味では、ここは通り道ということです。
ズーッと気管支は枝分かれをしています。1本が2本、2本が4本、4本が8本、倍々に分かれていきます。凡そ20回くらい分かれていって、肺胞というところに到達します。
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 1-3.肺胞
この肺胞は、大体、体の中に3億個くらいあるといわれています。この肺胞に入ってきて始めて体の中に入って行く準備が出来るわけです。気管支は単なる通り道ですが、気管支に異常があれば当然、通り道を塞ぐわけですから、それだけでも異常が出てきますが、特に、肺胞は一番大切なところです。ここから血液の中へ酸素を取り入れるのです。
酸素の取り込みの仕組みですが、この部屋が1つの肺胞だとしますと、この部屋の中に空気が充満しています。空気の中には大体20%くらいの酸素が入っていますが、それをどうやって取り入れるかというと、床とか壁とか天井とかの外を取り巻くように網目状に血管が分布しています。床とか壁とかの膜は非常に薄いから沁み込むように酸素は血管の中に入って行きます。そして血液の中に取り込まれます。正確にいうと、赤血球の中に入って行ってヘモグロビンという蛋白質にくっついて血液の中を駆け巡っていくという仕組みです。
この肺胞というのは、最終的に体の中に酸素を取り込むところですから、非常に大切なところです。部屋の中も綺麗になっていなければいけないし、壁とか天井とかを取り巻いている血管もしっかりしていなければいけない。
この壁自体も非常に薄くないといけない。厚くなってきますと酸素が沁み込むのに障害になってしまいます。そういうことが無いように普通はなっているのですが、病気になると気管支に異常が出るとか、或いは肺胞の方に異常が出てくることが起こってきます。

 1-4.COPD
呼吸不全で一番多い病気である肺気腫、最近ではCOPDと言っていますけれども、世界的な流れとして肺気腫とか慢性気管支炎といったものをひっくるめてCOPDと言います。日本語で言うと慢性閉塞性肺疾患という舌を噛みそうな名前なので、なかなか普及しません。またCOPDというのは横文字ですからこれから普及していくかどうか分からないのですが、NHKのテレビ「試してガッテン」などでCOPDの話が出たりしています。
肺気腫になりますと血管が壊れたり、或いは部屋自体が普通は弾力を持っているのですが、その弾性がなくなってしまう。力が無くなったような肺胞、或いは完全に壊れてしまうということが起こってきます。そうすると一番大切な酸素を取り込む仕組みであるこの肺胞、及びそれにくっついている血管というところに障害を来たすわけですから呼吸には一番大切なところをやられることになります。
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 1-5.呼吸不全
さて、特に肺胞を壊すような病気があると酸素がうまく取り込まれなくて、呼吸不全ということが起こってきます。呼吸不全には急性に起こってくるものと慢性に起こってくるものとがあります。急性とは例えば、ひどい肺炎になった場合、酸素を吸いながら治療を受けると、うまくいけば肺炎から脱出して酸素をはずせます。一方、慢性的に気管支や肺がダメージを受けて戻りきられなくなった時に、それは慢性呼吸不全です。

 1-6.血液ガス(動脈血)酸素分圧
これを数字で説明しますと、動脈の血液ガスの酸素分圧というのがあります。皆さんの中には採血をされた方が居られると思います。肘や手首など動脈が体の表面を走り、ドクンドクン打っているところ、脈が取れますね。太ももの付け根のところから採血することもあります。酸素が動脈の中の血液に含まれる酸素の分圧、圧力を調べてみると、これが60という値が出たとしますね。これが60ミリメートル水銀柱(oHg)とか60トールとかいういいかたをします。これを切るものを、呼吸不全というふうにいいます。慢性という場合には、これが1カ月以上続くのが、おおよその目安です。

 1-7.パルスオキシメーター
皆さん方の病院では普通血液を採るのじゃぁなくて、洗濯バサミみたいなもので爪を挟みますよね。パルスオキシメーターというものですが、これで何を見ているかというと、爪の下を流れる血液の色を見ているのですね。酸素がくっついた、さっきいった赤血球の中にヘモグロビンという蛋白質があるのですが、ヘモグロビンの色を見ているのです。
酸素が沢山くっついていると赤っぽく見えるし、酸素がくっついていないと黒っぽく見える。その色を見ているのです。それは動脈採血しても同じ色です。お医者さんが動脈から採ってみると黒っぽいから悪いかなぁと思うのはそのせいです。そのくっつき具合のことを医学的には酸素の飽和度というのです。これはパーセントでいいます酸素が沢山くっついていると赤っぽく見えるし、酸素がくっついていないと黒っぽく見える。その色を見ているのです。それは動脈採血しても同じ色です。お医者さんが動脈から採ってみると黒っぽいから悪いかなぁと思うのはそのせいです。そのくっつき具合のことを医学的には酸素の飽和度というのです。これはパーセントでいいます。
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 1-8.酸素の分圧と酸素飽和度
さっき言った酸素の分圧、血液を採って圧力が60を切ると呼吸不全ですよというのですが、この60が大体どのくらいに相当するかというと、これは90%に相当します。ですから普通の方はパルスオキシメーターで測ると96とか97とかいう値を示します。酸素が減っていきますと飽和度は下がっていくわけですが、どちらかというと酸素の分圧の方が巾が広いのです。飽和度で見ると普通の人は96%以上が正常とすると、それが90以下に下がると呼吸不全ということになります。ちなみに酸素の飽和度は最高100です。くっつき具合いを見ているわけですから全部くっついていて100%ですから100以上にはなりません。
圧力の方は酸素をたくさん吸いますと、それこそ150とか200とかあります。或いは手術をして麻酔をしていると健康な人ですと300とか400とか示すこともあります。そういうふうに少し意味合いは違うのですが、パルスオキシメーターで見る酸素の飽和度90%というのが大体、酸素の分圧で60トール、60ミリメートル水銀柱に相当するということですね。
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 1-9.炭酸ガス
もう1つ大切なのは炭酸ガスですね。二酸化炭素と同じものです。酸素が減る原因はいろいろあるのです。単一の原因ではない。ところが炭酸ガスが増えたり減ったりというのは単純です。単純というのは空気の入れ替えによります。換気ですね。丁度この部屋の空気の入れ替えと同じです。窓とかドアを開けっ放して空気を入れ替える。空気の入れ替えが充分行われていると、人が吐き出した炭酸ガスはスーッと外に逃げて行きますね。だけどこれを全部閉めたまま何時間も居ると人が吐き出した炭酸ガスは一杯溜まってきます。
空気の入れ替えがいいと炭酸ガスは下がるし、悪いと体の中に炭酸ガスは増えます。酸素を源として体にエネルギーが出来て来るのですが、その時に炭酸ガスというのは副産物として出来てきます。副産物として出来てきた炭酸ガスは私たちが吐き出す空気の中に沢山含まれています。ところが、空気の入れ替えが悪いと体の中に、端的にいうと血液の中に炭酸ガスが増える。これはどうやって調べるかというと、今のところ、やはり動脈の採血をして、動脈の血液の中にどれくらいの圧力として炭酸ガスが存在するか、そういうやり方でないと今のところ一般の病院では出来ません。ごく特殊なICUとかいう特殊な施設があるところでは、例えば息を吐き出す、その息を取って調べる。或いは皮膚をとおして測るとかいうことが試みられていますが、まだ一般的ではありません。だから炭酸ガスについては、こういうパルスオキシメーターに代わるようなものはないので、必要に応じて炭酸ガスがどのくらいあるかというのは血液を採って調べるのです。
一般的に1回採って見て炭酸ガスがそんなに高くない人では、体に不調がない限りはそう簡単に上がることはありません。だけど例えば結核の後遺症などがありますと肺活量が減っているものですから空気の入れ替えが充分でなくなって、炭酸ガスが増えるといったことがあります。
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 1-10.呼吸機能検査
さて、次に肺機能と呼吸機能の検査ですが、呼吸機能検査というのは肺活量の検査です。主には肺活量と1秒間に吐き出す肺活量、これを1秒量といい、その割合を1秒率といいますが、この2つが大きな目安です。        
(スパイロメーター) 
[肺活量]
肺活量は皆さんご存知のように大きな人から小さい人まで、例えばトランペットを吹く人たちは肺活量が非常にありますね。それから結核後遺症や肺気腫などで肺がダメージを受けていると肺活量は減ってきます。ですからこれは肺の大きさを示します。
肺活量は続けられるだけ吐いてかまいません。3秒位でハーッと吐ける人もいるでしょうし、10秒くらいハーッと頑張れる人もいるかも知れません。
[1秒量と1秒率]
今度は1秒間の短い時間にどれだけ吐き出せるかというのが1秒間の肺活量、1秒量であり、その肺活量に対する割合を1秒率といいます。これは気管支の広さを表す指標です。1秒量が多い、つまり1秒間に一杯吐き出せる人は気管支が充分に広い。丁度風船と同じ、風船を膨らませておいて風船の口が充分開いているとスーッと出ますね。だけど、風船の出口が狭いとプルプルプルーッとしか出ない。このゴム風船の口のところに相当するのが気管支です。空気の通り道ですね。空気の通り道が狭いと1秒間に出せる量も少なくなってしまいます。
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 1-11.呼吸不全の診断
 
凡そ、呼吸機能検査では肺活量と1秒量のこの2つを見ると考えていいですね。例えば、肺の大きさが小さくなるのは手術で取ってしまったとか、結核の後遺症とか、或いは肺気腫でも減ってしまうことがあるのですね。
一方、気管支が狭くなる代表はCOPDですね。このCOPDというのは肺胞が壊れていくのですけれども、肺胞が壊れるとともに気管支が狭くなってきます。気管支が狭いので、吸い込んだ空気が吐き出せなくなって1秒間の短い時間に沢山吐き出せなくなるということが起こって来ます。この2つをもって、どういう病気が起こっているかを推測することが出来ます。それで肺機能検査、呼吸機能検査をします。
レントゲンを撮って、或いはCTでどうなっているかを目で見るのが画像診断です。一方、肺の働きという面から数字で出てくる目安というのが呼吸機能検査ですし、血液ガスを見るパルスオキシメーターということになります。そういう風に形態、形と働きと2つの面から見ていくのです。
症状としては、先ず呼吸困難が起こってきます。但し、この呼吸困難の難しいところは、酸素が減っている状態、酸素不足、酸素欠乏の状態を低酸素血症というのですが、これは決してイコールではないのです。つまり低酸素血症があっても、余り息苦しさを感じない人もいるし、逆に息苦しいと感じるけれども、そんなに低酸素じゃぁない人もいるんです。
だから、それは体の中に酸素がどの位あるかで単純に決まるものではないんです。例えば肺の動きとか胸の動きとかが不充分、或いはそれを感じる脳の中にそれを感じる中枢がありますが、その呼吸中枢がどう感じるかによっても違ってくるので、必ずしもこれは低酸素血症とイコールではないという難しいところがあるのです。ですから、酸素は充分あるのになぁ、自分はどうして苦しいかなぁと思う方は少なくありません。
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 【2】 呼吸不全の治療
 2-1.在宅酸素療法  2-2.濃縮酸素と液体酸素
 2-3.炭酸ガスと血液のPH  2-4.呼吸リハビリテーション
 2-5.鼻マスク人工呼吸療法  2-6.外科的療法
 2-7.禁煙の重要性:ニコチンの依存性と禁煙補助薬
これまで簡単に、呼吸不全とはどういうものか、どういうことで起こって来て、どういう方法でそれを調べるかという話をしましたので治療というところに入っていくわけですが、薬物療法は【3】で詳しく説明いたします。

 2-1.在宅酸素療法
在宅酸素療法というのが行われています。これはもう20年ちょっとになるのですが、在宅酸素療法は今、全国で11万人位していらっしゃるということで、これはやはり年々増えていっています。
一番多く在宅酸素療法を受けなければいけないのはCOPD(肺気腫、慢性気管支炎)です。在宅酸素療法を受けている方の4割位がCOPDという病気の方です。次いで日本では肺結核後遺症とか肺線維症(間質性肺炎)ですね。そのほかにも例えば気管支拡張症とか側湾症とか胸郭の変形、それから肺がんの方などがお家で酸素療法をしています。
呼吸不全の方は勿論酸素を吸わないと息苦しいということがあって吸わないといけないわけですが、酸素を吸っているとそれだけ寿命が延びるというふうなデーターも充分出ています。これは元々イギリスとかアメリカで出たんですが、日本でももう10年くらい前でしょうか、厚生省の研究班で、やはり酸素を吸ったほうが生命が延長しますよ、というデーターが出ています。そういう酸素療法というのが先ずは大切になってきます。

 2-2.濃縮酸素と液体酸素
昔は、酸素は酸素ボンベがないと、或いは酸素の配管がないと吸えなかったので酸素療法をしている方は入院していないと駄目だったのですが、酸素を供給する仕組みが開発されて、酸素の濃縮器、エンリッチャーというのがあります。それから液体酸素というのがあります。こういう2つの方法でお家でも酸素が吸えるようになりました。酸素は濃縮器、エンリッチャーというのを使っている方が9割以上でしょうね。
酸素の濃縮器というのはどういう仕組みになっているかというと、これは電源さえあればいいのです。小型の冷蔵庫のようのもので酸素を濃縮します。酸素だけを取り出すようにします、電源さえあればそういう素材を使って酸素を濃縮することが出来ます。ですからお家でも吸えるということになるのです。これはその流量によって1リットルから5リットル以上まであります。
一方、液体酸素というのは酸素を非常に低温に置いておいて液体化したしたものを揮発させて、それを吸うという仕組みになっています。これは非常にいい仕組みなんですが、詰め替えをしたりだとか、或いは消防法上のいろんな制約があったりして、まだまだ普及はしません。ただ携帯をしたり、或いは沢山酸素を吸わなければいけない時には、この液体酸素が優れている時があります。然しながら、酸素濃縮器というのを吸っておられる方が多いのです。
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 2-3.炭酸ガスと血液のPH
酸素を吸う場合に一つ気をつけておかないといけないことは、酸素というのは呼吸をする時の材料ですから、材料が一杯入ってくるということは、炭酸ガスが出来易いということですよね。普通、動脈から採血をして炭酸ガスが正常とか少ないという方は普通、酸素を吸っても炭酸ガスが上がってくることは非常に稀です。しかしながら元々炭酸ガス(二酸化炭素)が少し多い人は、酸素を吸うとその分少し炭酸ガスが上がってくる人がいます。或いはむやみに酸素を上げますと、炭酸ガスはグーッと増えてくることがある。そこにちょっと注意する必要があるので、通常、酸素吸入を始める時には血液を採って炭酸ガスがどのくらいかというのを見ておく必要があります。また時々は見る必要があります。
炭酸ガスが溜まってくるとどういう不都合があるかというと、先ず血液が酸性になってきます。血液のPHは7.4位が正常なんです。大体7が中性、この数字が下がって6とか5とかになってくると酸性だし、8とか9とかになってくるとアルカリ性なんです。ですから7.4は弱アルカリ性だというのがお分かりいただけると思います。
ところがこのPHというのは、普通は非常に狭い範囲で動いていまして、通常は7.35から7.45です。少数第1位と第2位の変化です、だからPH7.2くらいになってくると、これは酸性に近付いて、余りよくないということになります。PHが7.6とかになることも稀にありますけれども、そういう場合も良くないことになります。ですから、炭酸ガスが増えて血液のPHが酸性に近づくというのは、例えば7.2とか7.1というのは体にとっては危険信号になります。そういう意味で血液の炭酸ガス、或いはPHを調べる必要があります。

 2-4.呼吸リハビリテーション
呼吸リハビリテーションというのはいろんなものを指しているのですが、1つは運動療法ですね。これまでいろんな研究がなされていて、リハビリテーションで一番大切なのは運動療法、特に足を動かす運動が一番大切です。お家の中でも少し屈伸したり、そういう足の運動をして体の調子を整えるということが、例えば息苦しさを軽くします。1番目に息苦しさを和らげる。2番目にはどれ位動けるかという運動の能力、続けていると体の運動能力が高まる。それによって、より良い生活が出来るということにつながる。所謂、QOL(キューオーエル:生活の質)を上げることですが、より楽な生活をするために、そういうリハビリテーションというのは行われるもので、その中で大切なのは、先ず運動療法、それから理学療法ですね。呼吸体操をしたりとか呼吸筋のストレッチをしたりとか、そういうリハビリテーションを加えながら酸素を吸う方はお薬を使って行くという方法になっていきます。
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 2-5.鼻マスク人工呼吸療法
治療の4番目のところに鼻マスク人工呼吸というのがあります。これは少し特殊な方だけですが、先に云いました炭酸ガスが非常に増えるタイプ、空気の入れ替えが余り充分でない。換気が充分でない人にはマスクをあてがいながら空気を押し込む、あるいは酸素を押し込むこともありますが、そうすると空気の入れ替えを助ける。空気の入れ替えの量を増やすことによって、炭酸ガスを減らすという方法が最近増えてきています。勿論、炭酸ガスが増えていない方は、こういうことをする必要はありませんが、呼吸をする筋肉が弱っている方にはそれなりの効果があるといわれています。

 2-6.外科的方法
最後に外科的方法というのは特殊な方法で、これはCOPDに関するものです。肺胞が壊れているものだから、唯、壊れ方が決まったところ、ある一定のところにあるという人は、それを取ることによって楽になることがあります。但しそれは1ヶ所とか2ヶ所とかにかたまって、しかも肺の上の方にあるのが効果は高いといわれています。それがいろんなとこにあっては、取っても楽にならないし、或いは手術をするにはそれなりの合併症があったり、危険性がありますから、そういう場合はしないほうがいいといわれています。

 2-7.まず禁煙!
薬の話をする前に一言いっておくのは禁煙のことですね。禁煙は非常に大切です。禁煙は、どんな病気についてもそれなりの効果があります。特にタバコの病気と云われるCOPDについては、出来るだけ早く止めることです。遅くなっても、止めるということは続けるよりもズーッと意味があります。生命の延長はそれで得られるということです。そういう裏付けがあります。ですから禁煙をすることは非常に大切なことです。
 ※ ニコチンの依存性と禁煙補助薬
但し、禁煙は中々難しいです。1回や2回の禁煙で旨くいくことはむしろ稀かもしれません。ニコチンに依存があるので、血液の中のニコチンが減ってくるとタバコが吸いたくなって、吸うことで血液の中のニコチンが増えて落着くという理屈なんです。それを助けるために今では、そのニコチンを別の方法で補ってあげてタバコを減らす、或いは止めるという方法があるのです。これがニコチンのガムやパッチです。そういうのを使いながらやっていくと禁煙の成功率が高まっていくと思います。ですから薬の話をする前に、先ず禁煙です。
これは単にCOPDだけの方ではなく結核後遺症の方もそうですし、或いは間質性肺炎とか気管支拡張症とかいろんなところに通じる問題です。禁煙は非常に大切な問題です。
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 【3】 薬物療法
病気については、それぞれ薬のところで病名を交えながらご説明いたします。
〜安定期の薬物療法〜
 3-1.気管支拡張剤  3-2.吸入剤
 3-3.持続性β刺激剤  3-4.内服の気管支拡張剤
 3-5.喘息の抗炎症剤  3-6.ステロイド剤
 3-7.吸入ステロイド剤  3-8.去痰剤
増悪期の薬物療法〜
 3-9.増悪期の選択薬  3-10.ステロイド剤と副作用
 3-11.増悪期のステロイド薬  3-12.抗生物質
予防薬など〜
 3-13.インフルエンザワクチン  3-14.インフルエンザ治療薬
 3-15.肺炎球菌ワクチン  3-16.さいごに
〜安定期の薬物療法〜

3-1.気管支拡張剤と、気管支拡張症
それでは薬物療法に行きましょう。お薬にはいろいろありますが、特に気管支拡張剤というのがありますね。気管支拡張剤、気管支を広げるお薬です。多くの病気は主として気管支にも変化があり、気管支が狭くなります。その代表はCOPD(肺気腫)です。それから肺結核後遺症の方も一緒に肺気腫があったりすることがあります。或いは肺結核後遺症のために慢性の気管支炎のように気管支が狭くなっていることもあります。
それから気管支拡張症という時がありますが、気管支拡張症に気管支拡張剤を使うことがあるのはなぜかというと、気管支拡張症というのは気管支が炎症によって壊れていくのですね。木の根を考えて下さい。木の根が枝分かれをしながら、先はズーッと細くなっていくのですね。ところが気管支が炎症によって繰り返し壊れていくと、先細りがなくなって気管支が広がってしまった状態になってきます。それは何が不都合かといいますと、そこから痰がいっぱい出てきたり、或いは血管が気管支の中に飛び出して来て、そこが時々破れて血痰が出てきたり、ひどい人は喀血なんていうことがおこります。そういう気管支拡張の部分、気管支が拡張して壊れた部分と一緒に、今度は気管支が狭くなったという部分も一緒にあるんです。その狭くなったところを薬で広げてあげると、それに反応して空気が入って行くんです。ですから、気管支拡張症にも気管支拡張剤を使うのです。

 3-2.吸入剤(β刺激剤,抗コリン剤)
気管支を拡張するお薬ですが、通常は先ず、吸入のお薬を試すことになります。これには飲み薬も注射製剤もありますが、通常は先ず吸入のお薬を使います。吸入のお薬には大きく2つ、難しい名前ですが、抗コリン剤というのとβ刺激剤があります。これは薬の分類で難しい名前が付いていますが、例えば抗コリン剤には、テルシガンとかアトロベントとかフルブロンといった薬があります。それからβ刺激剤の中にはサルタノールとかメプチンエアーとかベロテックといったものがあります。これらは何れも吸入によって気管支を広げるわけですが、飲み薬と違って何処に利点があるかというと、局所療法なんですね。だから血液の中に入っていきません。例えばメプチンなどβ刺激剤の飲み薬は、これを飲むと動悸が強くなるという方がおられます。血液の中に入るものですから、余計そういう副作用が出ます。吸入でもβ刺激剤のサルタノールやメプチンエアーは、少し心臓のほうに負担を起こすことがあります。動悸がしたり、少し手が震えたりすることがあります。
抗コリン剤のテルシガンやアトロベントには、そういう副作用はないのですが、緑内障で眼圧が高くなるとか、前立腺肥大があればおしっこが出にくくなるとかありますので注意する必要があります。どちらかというと、抗コリン剤の方が副作用は少ないので、私自身はこちらの方を先に使います。或いは併用もありますが、先ず吸入をするというのが一番大切な方法です。唯これは、お薬が効いている時間が一寸短いという不便があるのです。だから抗コリン剤だと1日に3回,4回吸わないといけない。
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 3-3.持続性(長時間型)β刺激剤
β刺激剤も3回,4回吸わないといけないのですが、最近、長時間作用が続くというものが出てきました。セレベントといい、喘息にも使います。長時間作用型のβ刺激剤です。パウダー、乾燥した粉末をスーッと吸うんですね。これだと1日2回の吸入です。
また、作用時間の長いβ刺激剤には、日本独自のホクナリンテープという貼り薬があります。セレベントなどの吸入剤の方がいろいろ海外の臨床データがあり、その効果が確かめられているのですが、このテープは1日1回体に張るだけでいいので、吸入がうまくいかない人に有効です。ただ、ときどきテープにかぶれる人がいます。
そして、近く抗コリン剤の方も長時間型というものが出てきます※ これは多分、1日1回でいいだろうということです。まだ日本では出ていませんけれども欧米では市販されています。それなりにきちんとしたデーターもあるということで、まぁこういうふうにお薬は徐々にではありますけれども、確実に進歩をしていますから、もっと色々出てくるはずです。
※スピリーバという商品名で2004年11月より承認されました。

 3-4.内服の気管支拡張剤
β刺激剤の飲み薬は昔ほど使われなくなりました。それは吸入でいろんないいお薬が出来たからです。飲み薬より吸入のほうが副作用が少ない。しかしながら飲み薬でも副作用が少なくなれば、本当は飲み薬のほうが楽ですね。吸入の時には吸入の仕方というのが、一寸問題になります。
飲み薬の代表はテオフィリン製剤と呼ばれるものですね。テオロングとかテオドールとかスロービット。ユニフィルは少し長時間作用型です。このテオフィリン製剤というのもやはり気管支を広げるお薬です。ただ、これは注意をしておく必要があるのは、沢山使うと副作用が出やすく、人によって程度が一寸違うのです。飲み薬ですから胃や腸から吸収されて、血液の中を巡るわけですが、腸からの吸収に個人差があるのです。同じような量を飲んでいても、或る人は血液の中の濃度がグーンと上がるし、人によっては濃度が上がらない。そういう個人差がありますから一寸使いにくい。余り上がり過ぎると、例えば動悸がしたりとか手の震えとか、或いはもっとひどくなると痙攣が起こったりしますので、テオフィリンというのは血液中の濃度を測るなどして、注意をしながら使う必要があります。お薬の価格としては安いので日本ではよく使われていますが、欧米では吸入の方が主で、これは余り使われていません。こういう気管支拡張剤というのがいろんな病気において使われる方法です。特にCOPDではこれが中心的な役割を持っています。
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 3-5.喘息の抗炎症剤
喘息の抗炎症剤の中でもメインはステロイド剤です。喘息では吸入のステロイド剤というのは非常に大切であるということが分かってきました。これは、ここ20年くらいの進歩です。昔はよく喘息だけで入退院を繰り返していたのですが、いろんな研究をやって見ると、例えば風邪や気管支炎などの炎症とはちがって、喘息特有の炎症が起こっているということが分かりました。その特殊な炎症を一番強く抑えるのが吸入ステロイド剤ということが分かって、これを使っていくと喘息発作で入退院を繰り返す人が非常に減ってきました。

 3-6.ステロイド剤
喘息単独で呼吸不全になることは余りありません。主に喘息は気管支の病気ですから、肺胞そのものは保たれているのですね。気管支は良くなったり悪くなったりを繰り返すのですがそれだけで呼吸不全になることはなくて、もし喘息で呼吸不全になった時はCOPDが一緒にあるということが殆どです。そういう人は多くタバコを吸っている人です。ただ、COPDの中にはたばこを吸っていなくて起こってくるという方も時に居られます。その場合、何が原因かということはまだ分かっていません。
何れにしても、吸入のステロイド剤というのが喘息では良く使われるというか、これが一番大切な治療だといわれています。
じゃぁ、呼吸不全についてはどうかというと、一つは喘息の合併があるような方、特にCOPDと喘息が一緒にある方についてはこれを使うべきです。それから肺の働きが悪くなって肺の機能が落ちた方で時々悪くなって入退院を繰り返す方にも使うべきであるという風にいわれています。或いはこれを使って見て、確かに肺の働きが良くなる方にはズーッと使うことが勧められています。
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 3-7.吸入のステロイド剤
吸入のステロイド剤にどういうものがあるかというと、昔からあるのはベコタイドとかアルデシンというもので、シューッと押すやつですね。
MDIというボンベを押して吸いますが、これはその効果を助けるためにスペーサーといって、インスパイヤーイースとかボルマチックという袋状になったものの中に入れてそれを吸うというものです。ところがこれはフロンガスを使って押すのですが、フロンガスが大気中のオゾン層を破壊するということで規制が掛かっています。ですからあと5年位で使えなくなるのです。
今では、それに換わるものが出ています。1つはドライパウダー、例えばフルタイドとかパルミコートと呼ばれるもの、或いは非常に細かい粒子でキュバールと呼ばれると呼ばれるものがあります。COPDの方で喘息の要素がある方、或いは時々増悪を繰り返して入退院をするという方には使ってみる価値があるということです。
吸入はどれでもそうですが、吸入の仕方というのが非常に大切です。MDI、ボンベをキュッと吸うのは、スペーサーを使って吸入をすると非常にいいといわれていますし、ドライパウダーもやはり、一度きちんとした吸入の指導を受けた方がいいと思います。これは各病院のお医者さんなり看護師さんなり薬剤師さんなり、こういう方がご存知ですから、出来れば繰り返し見てもらったほうがいいと思います。

 3-8.去痰剤
去痰剤というのがありますね。痰切りのお薬です。これは実はなかなか難しいものです。痰切りとそれだけ聞けばよさそうな感じがしますが、じゃぁ実際どれだけ効果があるかあるかというのは、これはまだ「?」なんです。ムコダインとかビソルボンとか、最近ではクリアナール、スペリアとかが出てきますけれども、これはまだ効果として「?」なんですが、最近の報告ではある程度の効果はあるかも知れないという風に少しポジティブに変わりつつあります。去痰剤も今、いろんなものが進歩して新しいお薬が出て来ていますから、それなりの効果が出てくる可能性があります。
こういったものが比較的安定した状況で使うお薬です。つまり、呼吸不全のお薬というものは、大きく分けて安定期と、悪くなった急性期、余りいい日本語でありませんが増悪期の2つがあるのですね。今ざっとお話したのは安定期のお薬についての話です。安定期には気管支拡張剤とか、人によって吸入ステロイド剤とか去痰剤、それから心臓の薬としては、心不全を起こすような方には利尿剤を使ったりします。
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〜B:増悪期の薬物療法〜
しかし、悪くなって来ると安定期の治療とは少し様変わりしてきます。悪くなるのは主にウイルスや細菌による気道感染です。勿論そうでない場合も、原因が分からない場合もありますが、基本的には気道の感染で悪くなるのです。悪くなった時には、例えば普段から咳や痰が出ている場合、痰の量が増えたとか、痰の色が汚くなったとか息苦しさが強くなったというようなことが起こって来ます。それによって重症度が変わってくるわけです。

 3-9.増悪期の選択薬
先ずは気管支拡張剤ですね。それも普通は吸入です。吸入の量とか回数を増やして対処する。飲み薬もありますが、長時間型の吸入薬は増悪期には余り使いません。長時間型は量が
決められているからです。短時間型のサルタノールとかメプチンを増やしたり、テルシガンとかアトロベントと云ったものを増やします。
それから飲み薬のテオフィリン、注射の薬ではネオフィリン、或いはテオドリップ、こういうのを点滴しています。
増悪期には重症度が上がるのが普通ですから注射の薬を使います。それから大切なのは、ステロイド剤ですね。安定期には喘息の要素があるような方、或いは増悪を繰り返すような方には吸入のステロイド剤といいましたけれども、悪くなった時には飲み薬のステロイド剤、場合によったら注射のステロイド剤を使います。

 3-10. ステロイド剤と副作用
ステロイド剤というのは、一般的に色々な副作用があります。特に長い間量を沢山使うと、例えば胃潰瘍を起こしたりとか骨がもろくなったりとかいろんなことが起こってきますが、基本的にこのステロイド剤というのは良いお薬なんですね。炎症を抑えるという意味では、現在では人類が持っているお薬では一番いいお薬です。ですから正しい使い方をする必要がある。長く使っていますと、副腎といって腎臓の上の小さな粒みたいな臓器ですが、ステロイドホルモンというのもここで作っていますし、色んな他のホルモンを作っているところですが、副腎の働きが悪くなってしまうということが起こります。こうなると感染症にかかりやすくなるなど、身体の抵抗力が弱くなってしまいます。だから通常、長く使う時は出来るだけ少ない量の飲み薬が原則です。必要な時には出来るだけ局所療法にするのです。
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 3-11.増悪期のステロイド(内服・注射)薬
ところが増悪期になった時には短期間、短期間と言うのは1ヵ月以内、普通は2週間前後でしょうか、これに限っては飲み薬とか注射のステロイドのお薬を使います。例えば飲み薬にプレドニンという薬があります。これが代表ですけれども、他にリンデロンとかデカドロンといったものがありますが、そういう飲み薬を短期間、比較的に量は多く使うのです。そこで私はよく言うのですが、こういう炎症が起きている時には喧嘩と同じで、その時だけはバーンと思い切って使ってパッと手を引くというのが一番いいやり方です。ですから短期間、比較的に量を多く使ってこれを収めます。これが非常に大切です。だから通常、この飲み薬のステロイドは、こういう増悪の時にはある程度使います。
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 3-12.抗生物質
それから抗生物質ですね。特に痰の量が増えたり、痰の色が汚くなったりと言う場合には抗生物質というのが使われるのです。抗生物質というのは何に効く薬かと言うと細菌感染に対して効くお薬です。ウイルス感染には効きません。だから、普通の風邪とかそういったものには効かない。何故なら風邪はウイルスによる病気だからです。
細菌感染がある時には抗生物質をきちんと使うべきです。通常は痰からどういうばい菌がいるかを検査するんですが、検査には数日かかります。じゃぁ数日待ってから抗生物質を使うかといいますと、そうじゃなくて、大凡こういったばい菌が起こした感染だろうという想像のもとに、それに見合う抗生物質を使うのです。それは飲み薬のこともありますし、ひどくなって来れば、点滴で注射をすることが必要になってきます。
一方、「ウイルス感染はどうするの」と云うことになりますが、ウイルスは基本的には風邪を代表とするように、ある期間を通り抜ければ自然とよくなってきます。風邪薬を飲んでよくなったという感じをお持ちかも知れないですけれども、実際は対症療法なんです。熱が高ければ熱を下げる。関節が痛ければ関節にシップをする。そういった対症療法なんですね。ウイルスををやっつけるお薬ではありません。
それで、そう云う細菌感染がある時には、さっき言いました気道感染がかなりの部分を占めまして、特に細菌感染の兆候がある時には、抗生物質で細菌感染をコントロールしていきます。これも余り長く使うと良くない。採血をして、白血球の数を目安に使っていくのですね。細菌感染があると普通は白血球の数が増えます。増えない細菌もいます。それはそれに応じた抗生物質がありますけれども、普通、白血球数が増えるようなものが多い。それからCRPというものをお聞きになったことがあるかも知れないですけれども、これは炎症の反応で、炎症の程度を表しています。特に炎症が強くなって来るとCRPが増えてくる。熱が出たりとか咽喉が痛かったりとかいうことでもCRPが増えてきます。これが高ければ高いほど重症だということになります。こういうのを見ながら、CRPが正常になったから抗生物質を止めましょうという判断をします。
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 3-13.インフルエンザワクチン
それから、もう一つインフルエンザワクチンというのがあります。インフルエンザというのはウイルスですから抗生物質は効きません。お医者さんによっては抗生物質をあげる方が居られます。それはインフルエンザの後に起こってくる細菌感染、2次感染ですけれども、インフルエンザウイルスで気管支の粘膜をやられた後で細菌感染を起こすことがあるものですから、一応、念のために抗生物質をあげる先生も居るかも知れません。だけれども基本的にはインフルエンザはウイルスですから、インフルエンザそのものには抗生物質は効かないのです。
インフルエンザの治療というのは、ワクチンが一番大切ですし有効です。インフルエンザワクチンを打つことによって、打たなかった時に例えば10人かかったとすると、ワクチンを打っておれば3人か4人位で済む、6人か7人はインフルエンザにかからなくて済む。かかった時も比較的それが重症にならないというふうにいわれています。
ですから、特に呼吸器に病気を持っている人、或いは少しお年を召した65才以上という方については、是非インフルエンザワクチンを打つことをお勧めします。通常は10月から11月くらいの間に打っていた方が良い。
効果が出てくるのには2週間位かかりますが、インフルエンザの抗体というのが出来てくるのに時間がかかるからです。前は2回打ちをしておりましたけれども、1回打ちだけでも抗体が増えてくることが殆どであるということで、今は1回打ちが主になってきました。ですから冬になる一寸手前でインフルエンザワクチンを打っておくことが、インフルエンザの後に細菌感染による肺炎を起こして、これが場合によっては致命的になったりする、それを防ぐ意味で非常に大切です。

3-14.インフルエンザ治療薬
また抗インフルエンザ薬というのが最近出てきております。吸入のお薬でリレンザと、飲み薬でタミフルというのがあります。こういうのはAB両方の型のインフルエンザに効くのです。それから昔からあるお薬でA型インフルエンザにだけ効くと言うシンメトレルというお薬があります。普通5日間くらい使います。インフルエンザワクチンを打ちそこねてインフルエンザにかかったとか、或いはワクチンを打っていてもインフルエンザにかかることがあります。その場合も、この抗インフルエンザ薬というのを、普通、発症してから2日以内、48時間以内に使うと効果があります。リレンザの方は丁度フルタイドの吸入と同じような器具を使ってスーッと吸うドライパウダーです。タミフルは飲み薬で5日間、シンメトレルも飲み薬で5日間ということです。
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 3-15.肺炎球菌ワクチン
それから肺炎球菌ワクチンというのをお聞きになったことがあるでしょうか。これは肺炎球菌に対してだけ効くお薬です。インフルエンザワクチンというのは、有効であると言ういろんな研究が沢山出ているのですけれども、肺炎球菌ワクチンに関してはまだ非常に少ないのです。
肺炎の殆どは細菌性であり、肺炎球菌が肺炎の第1位の原因です。その肺炎球菌による肺炎を抑える薬ですが、これもインフルエンザワクチンと同じでパーフェクトではありませんから、これで絶対に肺炎にならないということではありません。
インフルエンザワクチンのほうは、年に1回ずつ打つ必要があります。インフルエンザウイルスはずっと形を変えていくので、それに応じたワクチンが毎年作られていくのです。だから、去年打っていたから大丈夫という訳ではありません。毎年改めて打つ必要がある。
ところが肺炎球菌のほうは、これも種類はあるのですけれども、23価の肺炎球菌ワクチンというのが出ていて、これは通常は1回射っておけば5年から10年はかかりにくいといわれています。ただ、これはまだデーターが十分でありません。然しながら、アメリカなどでは特に呼吸器に問題があるような患者さんについては、このワクチンを射つことを勧めています。こんなふうにワクチンは非常に大切になっています。

 3-16.さいごに
お薬は、徐々にではありますが確実に進歩は遂げて行きますから、まだまだ、いいお薬は出て来るはずです。先にもいいましたように、気管支拡張剤の長時間作用型の抗コリン剤というのが2004年は出てきます。これはもう1日1回でいいだろうと云うので、私どもも非常に期待しているところです。
最後に大切なこと、お薬の話とは一寸違うのですが、どうしても呼吸不全といいますと少し気分的に落ち込みがちになりますが、こころの健康、いいお薬があっても、その薬の効きの好い悪いは心の健康にかかるところがある。前向きに、しかも元気な時の感じでがむしゃらに頑張る方も居られますけれども、そうじゃなくて少し気分をゆったり持って、普段の生活もゆったりした心持ちで行かれ、これまでいいましたような薬を中心とする、或いは酸素療法、或いはリハビリテーションをするほうが効果も上がると思います。前向きに、そして気分的にはゆったりと、体の動きもゆったりと、いうのが大切なことではないかなぁと、患者さん方とお付き合いしていると思います。
以上が私の話ですがご質問があったらどうぞ。
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 ◇ 質 問 ◇
【質問1】 炭酸ガスと腹式呼吸は?
【質問2】 酸素療法の目安は?
【質問3】 抗生物質の長期服用は?
【質問4】 安静時?運動時?
【質問5】 間質性肺炎と気胸
【質問6】 気胸は胸膜が破れて起こる?
【質問7】 去痰剤の効き目は?
【質問8】 喘息のコントロールは?

【質問1】 炭酸ガスを自分でコントロールするには、腹式呼吸とかするのは効果があるものでしょうか。

【回答】 多少あるでしょうね。多少というのは、なかなか人間はそういう努力を24時間ズーッと続けるというのは不可能ですよね。一生懸命やりはするけれど短時間に終わってしまいます。炭酸ガスを吐き出すだけに腹式呼吸だけをするというのでは無理ですが、体調を整えるという意味では是非続けられたがいいでしょう。


【質問2】 酸素療法をするのは、どの位の酸素を目安にしたらいいでしょうか。

【回答】 通常酸素療法が適用になるのは酸素分圧で55トール、飽和度でいくと88%です。但しこの間で動いた時に低酸素になるとか寝ている時に低酸素になる方が居られまして、そういう方は酸素療法を早く適用することになります。酸素を吸い出す時、どのくらいの酸素飽和度を目安にするかということになりますが、通常は90%とか92〜3%以下です。
但しこれも炭酸ガスが多い方は注意する必要があります。こういうかたの場合、酸素を吸って98とか99とかにする必要はないのです。むしろそれをすると炭酸ガスが元々高い方は、それによって、炭酸ガスも増えてきます。そうすると、さっき言ったペーハー(PH)というのが酸性の方に近づいて、いろいろ不都合が起こってきます。ですから、炭酸ガスが元々高い方には酸素の飽和度はあまり高くし過ぎると返って悪い。だから92%から96%位あれば大丈夫だろう、酸素の分圧でいくと出来れば70トール以上というのが1つの目安です。
但しこれは人によって違いがあります。というのは、さっき呼吸困難の話をしましたが、酸素が充分あるのに息苦しいという方が居られます。そうすると酸素は少し多めになることが多いようです。
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【質問3】 抗生物質を長期に使うことがありますが抗生物質の期間の目安はどうなっているのでしょうか。

【回答】 抗生物質の1つの目安は2週間ですね。勿論、肺炎とか起こして治りが悪い時は3週間、4週間もっと使うこともあります。しかしながら、外来で使う時の抗生物質には1週間乃至2週間が1つの目安です。長く使うと場合によっては耐性菌というのを作っていくわけです。お薬の効き難いのだけ体の中に残っていくわけです。時にそれがまた悪さをするのです。
ただし、気管支拡張症がある「びまん性汎細気管支炎(DPB)」という一寸特殊な病気があるのです。実はこの「びまん性汎細気管支炎」というのは主に日本人の病気といわれるくらい、東南アジアでも稀な病気です。それにエリスロマイシンを少量、長期に使う方法があるのです。例えば半年とか1年とか使う、そうするとよくなることが分かったのです。それは、ばい菌をやっつけるのじゃなくて他の働きがあってよくしてくれるのだろう。それを応用して気管支拡張症にそういう使い方をすることがあるのですね。暫らくやってみてダメだったらそこで止めるということになります。


【質問4】 安静時と行動時の分け方ですが、こんなふうに先生の話を聞いている時、テレビを見ている時とか音楽を聴いている時は安静時でしょうか。

【回答】 じっとそこに座って聞いている時には安静と考えていいですね、電車や自動車に乗って体が移動して行くのではなくて自分で動いて行く、これは運動時ですね。
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【質問5】 今日来る予定をしていたけれども、具合が悪くなって来られなくなった間質性肺炎の方がいて、度々気胸を起こすと聞いているのですが、間質性肺炎と気胸とは何か関連があるのでしょうか。

【回答】 気胸というのは肺がパンクすることですね。肺の弱いところがあってパンクを起こすと、丁度風船と同じで、風船がシュルシュルと縮みながら開いた穴から空気が洩れていきますから、肺は小さくなりながら洩れ出た空気が胸の中に溜まるわけです。
気胸というのは普通上の方に起こり易いのですね。上の方に穴が開くと空気が洩れ出します。洩れ出た空気が肺をズーッと取り巻くようになってくるのですね。こう云った病気は普通、間質性肺炎には起こり易い、もう一つはCOPDですね。肺の弱いところがあって、そこから気胸が起こる。気胸が起こってくると肺が小さくなりますから、肺の働きが悪くなって来ます。ひどくなって来ると、洩れ出た空気が肺や心臓を圧迫してきます。緊張性の気胸と言い、これが非常に危険ですね。気胸が起こったら、その洩れ出た空気を外に出してやる必要があります。細い針で吸ってあげて、それだけで膨らむこともあります。
肺というのは生きている臓器ですから穴が何時もあきっぱなしという訳ではありません。多くは段々塞がっていきます。だけど、中々それが塞がらないということもあります。そういう場合は肺に局部ドレーンという管を入れて陰圧をかけて、丁度、真空掃除機みたいなもので、洩れ出た空気をズーッと吸い出してやります。吸い出していくと縮んでいた肺がまた大きくなっていくということになります。うまくいけば穴も塞がってドレーンが抜ける、管が抜けることになります。何れも肺線維症にもCOPDにも起こってくる症状です。


【質問6】 肺胞が破れて起こるのでなくて肺の胸膜が破れて起こるのですか。

【回答】 そうです。肺を包んでいるところ、そこにブラとかが出来て弱いところがある人がいます。そこからプシュと破れることがあるのですね。場合によっては少し外科的な手術が必要なこともあります。今では胸腔鏡手術でブラを取ってしまうこともあります。
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【質問7】 先ほど、去痰剤はあまり効果がないということでしたが、始めから主治医から去痰剤をもらって飲んでいたのですけれども、痰が喉にへばり付くのですね、中々痰が出にくい。大体痰が出ないのに無理やり出す薬でしょう。時々、喉に貼り付いて出ないものだから苦しいわけですね。ゲーゲーいって苦しいものですから、却って肺を痛めるんじゃないかとすら思う時があるものですから止めようかなと思う時があるのです。

【回答】 去痰剤は見直しがされて来ています。即ち、ある程度効く可能性があると、例えば増悪の回数を減らすのには効果があるという研究も出てきているのですね。ですからこれまで考えられていたよりも、去痰剤はある意味では効いているかもしれないということです。ただ、張り付いている痰を取るというのは中々難しいのですね。
去痰剤にはいろんな種類があります。例えば痰を滑りやすくして出しやすくする。それから、痰の出来るのをある程度抑える薬から、或いは痰を分解してしまうようなのもあります。それによっても違うでしょうし、いろんな新しいお薬も出ていますから、少しこれから期待できるかなぁと思います。
痰を出すためには、どちらかと言うと吸入の気管支拡張剤の方がより効果があるかもしれません。勿論効かない人もいますよ。だからそれは色んなものを試してみる必要があります。去痰剤は効く方も居られるので、それは薬の種類、人によって違うと申し上げておきます。去痰剤はむしろこれから見直しが起こっていて、良いお薬が出てくる可能性があります。


【質問8】 喘息の薬にパルミコートですか、そういう良い薬が出来て、これを常用してピークフローメーターで体調を管理すれば、喘息は管理できる病気だといわれていると思うのですが、どうも、もともとアレルギー体質の人は、中々それがうまくいかないと思えるような人が患者会の若い仲間にいて、時々悪くなることがあるのですが、喘息というのは管理できる病気でしょうか。それとも体質的に管理できないのかをお尋ねします。

【回答】 喘息は、気管支に喘息特有の炎症があるために気管支の中が時々狭くなる。狭くなるのは気管支拡張剤で良くはなるのですけれども、それは一時的なものです。それを出来るだけよくコントロールしていくためには炎症を取っていかないといけないという考え方です。その抗炎症療法の一番最たるものは吸入ステロイド剤で、例えばパルミコートです。但し、喘息にはいろいろ重症度があります。吸入のステロイド剤だけでは充分でない方もある。それから吸入自体がうまくいっているかどうかという問題も出て来ます。どうも無い時でも吸入をしておかないといけないのです。
というのは、気管支が狭くなっていなくても喘息の炎症は続いているのですね。それをほったらかしにしているので困る。症状が無い時でも吸入のステロイド剤は継続しなければならない。更にこれが重症になってきますといろいろなお薬が加わってきます。さっきも一寸出てきましたがセレベントという長時間作用型のβ(ベータ)刺戟薬は気管支をひろげるお薬ですね。これをあげるとか、それからテオフィリンののみ薬を出すとか、ここでは出てきませんでしたが、喘息の薬で抗ロイコトリエン薬、これも飲み薬ですね。こういうものを付け加えながらいろいろ工夫していくと基本的には管理が95%以上の人には出来ると思います。ただ、非常に少ないのですけれども重症の方が居られます。その方たちはまだ充分管理がそこまでいけないのです。その方がどういう方か分らないですけれども、吸入ステロイド剤がキチンと出されているか、その量は充分か、もし足らなければ少し他の薬を加えるといったことを検討していく必要があると思います。
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岩永先生には、お忙しい中にも拘らず原稿の校正・監修を
快くお引き受け下さいました。本当に有難うございました。
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