◇ リハビリ講座 ◇
快適な日常生活を送るための
「呼吸法と動作の工夫」
呼吸不全友の会(ホットの会)/「呼吸不全教室-呼吸法」
国立病院機構 福岡病院看護部 呼吸不全教室運営委員会
1.洗面・トイレ
2.食事
3.入浴
4.着替え
5.車の乗り降り
6.階段の昇降
7.屋外歩行
8.パニックコントロール
9.息苦しい動作をする時の対応法
人は皆「自分のことは自分でしたい」「自立したい」というニーズを持っています。しかし慢性呼吸不全の方は、日常生活動作(ADL)が呼吸困難により制限されることが多くなります。
呼吸困難は疾患の悪化のみによって生じるだけでなく、生活習慣や行動から引き起こされる場合もあります。また、簡単な活動にさえ参加できないことから生じる欲求不満のため、怒りっぽくなったり悲観的になる、あるいは他者に対して敵対的になったりします。
そこで何気なく行っている日常生活を少し見直して、息切れの少ない無理のない日常生活や仕事、趣味活動を行っていただきたいと思います。

1.洗面・トイレ
<洗面>
(1)洗面所に椅子を設置し、椅子に座って全ての動作を行う。
(2)洗面台に肘部を固定し、上肢を大きく動かさないようにして歯磨きを行う。呼吸を意識しながら呼吸に合わせてゆっくり歯を磨く。電動ブラシを使用するのも呼吸困難予防に有効である。
(3)うがいとうがいの間に休みを入れる。
(4)洗顔は息を吐きながら行なう。繰り返し洗顔する時は呼吸を整え、次の呼気と洗顔とのタイミングをとる。
カニューラは出来るだけ外さないほうがよい。
<トイレ>
(1)始めに便器に座って休み、呼吸を整えてからズボンを脱ぐ。
(2)息をゆっくり吐きながら徐々に腹圧をかける。息を止めてきばると苦しくなる。息をゆっくり吐きながら徐々に腹圧をかける方法を繰り返して自然に出すようにする。 コツをつかむまでに練習が必要であるが根気良く続ける。また、便通をよくするために水分摂取や食事の内容に気をつける。
(3)早く終えようと急ぐとよけいに息苦しさが増し、肺や心臓の負担が大きくなるので少し休憩して落ち着いてから後始末にとりかかる。
先頭に戻る

2.食事
(1)食べ物が口の中にある時はゆっくり噛みながら鼻で呼吸をする。呼吸を止めて一気に食べない。
(2)むせると咳き込んで苦しさが増すのであわてないように飲みこむ。時々背すじを伸ばして呼吸を整える。
(3)食事は腹八分目にして回数で補う。
(4)熱い湯気を吸い込むと息がしにくくなる場合があるので注意する。

3.入浴 
(1)入浴時は特に息苦しいので酸素はきちんと吸う。
(2)脱衣場には椅子を用意して充分に休憩してから脱衣をする。※浴室の椅子は高めの方がよい。(40cm位まで)
(3)体を洗う時は呼吸に合わせてゆっくり動かす。
体をこする動作は反復運動なので速くなりやすく力を入れ続けるため息苦しくなる。まずは口すぼめ呼吸などのペースに合わせてゆっくり洗う。
(4)背中は長いタオルを使った方が楽な姿勢で洗うことができる。
(5)洗髪は片方の腕だけを挙げる。少し首を傾けると腕を肩より上に上げないで洗髪できる。
(6)洗い終わったら休んでから浴槽に入る。浴槽の出入りはゆっくり息を吐きながら行う。脈の速い人はぬるめのお湯に入り、湯の高さは、みぞおちくらいにしたり、シャワー浴にする。
(7)お風呂から上がったら椅子に座り、呼吸を整えてから体を拭いて服を着る。
先頭に戻る

4.着替え
着替えは腕を肩より上に挙げる動きや、ズボンや靴下をはく時に腹部を圧迫して呼吸しにくくする要素が多くある。
(1)呼吸に合わせてゆっくり行う。動作時は始めに呼吸を整え、息を吐き始めると同時に動作を開始する。1回の呼吸で出来なくてもよい。呼吸のペースを乱さないようにゆっくり行う。
(2)一つの動作が終ったら必ず一休みする。
(3)椅子に座って着替える。衣類は机や台の上に置く。
(4)動作の方法を変えてみる。(靴下をはく時に足を組むなど)
(5)無駄な動作は省く。パンツとズボンをはく時は、パンツに足を通し、ある程度引き上げてズボンに足を通し、立ち上がってパンツとズボンをそれぞれ上げる。
(6)衣類の形や素材に注意
 ・ 前開きの衣服
 ・ 伸縮性のあるゆったりした衣服を選ぶ
 ・ 重ね着する場合は静電気の起こりにくい素材にする
 ・ 背中にボタンやファスナーのある服はさける

5.車の乗り降り
<車の乗り方>
(1)口すぼめ呼吸で吐きながらボンベを持ち上げ車に乗せる。
(2)自分がお尻から乗りこむ。
(3)ボンベの位置を奥にずらし足を入れる。
<車の降り方>
(1)足を降ろす。
(2)ボンベをドアの近くに移動する。
(3)自分が降りる。
(4)安定した姿勢で口すぼめ呼吸で吐きながらボンベを降ろす。
※キャリーの持ち上げ方:下側の取っ手を持ち、空いている方の手を添えて方向を調節する。
先頭に戻る

6.階段の昇降
(1)昇る前に必ず休みを入れ、呼吸を整える。まず腹式呼吸で吸い、階段を上がりながら口すぼめ呼吸で吐く。自分のペースでゆっくり上がり、上がっている間は呼吸を止めない。息を吐ききったら立ち止まって腹式呼吸で息を吸うという動作を繰り返す。
(2)呼吸のリズムが乱れ始めたら休憩を入れる。
(3)一段に一歩ずつの昇り方がきついようであれば、一段ずつ足をそろえてゆっくり昇る。何段で休みを入れたら楽に昇れるかペースを知っておく。

7.屋外歩行
歩行や運動は筋力、関節可動域の保存、呼吸循環機能、神経機能の活性化に役立つのである。活動性を高め、生活のリズムを整えるために、屋外歩行をおすすめする。
(1)歩行時は口すぼめ呼吸を心がける。歩き始めを口すぼめ呼吸で行うとリズムがつかみやすくなる。
(2)自分のペースでゆっくり歩行する。
(3)呼吸困難が増強した時は休憩する。呼吸を整えてから再び歩行する。
先頭に戻る

8.パニックコントロール
急に呼吸困難が出現し、どうしようもなくなったら
<屋外の場合>
(1)気持を落ち着かせ楽な姿勢をとる。(座る、より掛かるなど)
(2)両手を太ももやひざの上に置き、前かがみの姿勢になる。そうすることで胸とお腹の動きが乱れず呼吸しやすくなり、体を少し前かがみにすると横隔膜が動きやすくなる。
(3)落ち着いて息を最後まで吐き出し、口すぼめ呼吸で整える。
<屋内の場合>
(1)ふとんやクッションを使用して楽な姿勢をとる。(頭部を高くして膝を曲げる。またはクッションやふとんに寄りかかる)
(2)呼吸法は屋外と同じ

9.息苦しい動作をする時の対応法
(1)口すぼめ呼吸(口をすぼめてゆっくり息を吐く)やゆっくりした大きな呼吸を行ない、これらの呼吸の呼気(息を吐く時)と動作の開始を合わせる。
(2)動作は呼気に合わせてゆっくり行なう。
(3)動作の途中で休憩を入れ・・無理をして行なうと安静状態に回復するまでに時間がかかり、肺や心臓に負担をかける。動作の途中で休憩を入れることで回復するまでの時間が短くなり、早く息苦しさから開放される。
(4)続けていろいろな動作を行わない・・ 一つの動作が完了したら、動作前の安静状態に戻してから次の動作にとりかかる。
(5)無駄な動きを省く・・ 人の動作には習慣や癖など無駄な動きがあります。手順を工夫して効率よく動作を行う。
(6)動作の方法を変える・・ 息苦しいと感じながらも習慣により従来の方法で動作を行なっていることがある。息苦しさを感じたら思いきって動作方法を変えてみる。
(7)周りの環境を整備し、効率よく動けるようにする・・ 洋式トイレの設置、トイレのドアの開閉が困難な時はカーテンに変える。廊下に休憩できるような椅子を設置する。
先頭に戻る
「ホットの会」のTOPへ 会の最新情報へ 「医療講演集」目次へ