◇ 福岡市呼吸器講演会 ◇  2006.11.17
「息切れと呼吸器疾患 ―特にCOPD
 (慢性閉塞性肺疾患)について」


 国立病院機構福岡病院呼吸器科部長
                  野上裕子先生
◇ 目 次 ◇
 1)息切れについて
  呼吸困難感
 2)呼吸とは?
   酸素と二酸化炭素とのバランス
 3)呼吸不全について
  二酸化炭素圧増加の病態
 4)COPDとは
  COPDの死亡率と推定患者数
  COPDの人の肺の状態
  COPDの特徴(エア・トラッピング)
  COPDの治療のガイドライン
 5)予防接種(インフルエンザ・肺炎球菌)
 6)酸素吸入の効果と受け止め方
 Q&A[非定型抗酸菌症],[酸素の量]

1)息切れについて
階段を登っている時、他の人と一緒について行けなくて「きついな、休みたいな…」ジョギングをしている時に「若いときのように走れなくなったな…年のせいかな…」ゴルフをやっているときに「もっとゆっくり行こうや…」と感じるようなことから息切れが始まってきます。普通、健康な人は無意識のうちに呼吸をしていて、呼吸をしているという意識はないわけですけど、息切れを感じるということは、呼吸を意識してしまうということです。
息切れは、呼吸をするのに苦しさや不快感を伴う自覚症状です。訴え方は様々で「息が苦しい」「息が切れる」「もっと空気がほしい」「空気が足りない」というように、窒息感、空気の飢餓感、努力性呼吸などの言葉と同義語で用いられています。
痛みとか聴覚、視覚は大脳皮質のどの部分で感じるかが判っているのですが、息切れに関しては、非常に複雑な感覚であり、息切れを感じる単一の器官はなく、大脳皮質のどの場所で感じるのかまだはっきり特定されていません。
さらに、同じ条件でも個人差が大きく、呼吸困難を引き起こす身体刺激を正確に決定することは難しいといわれています。「呼吸困難」の定義は(米国胸部疾患学会、1999)「呼吸が不快だという主観的な体験であり、様々な強さの質的に異なる複数の感覚からなる」と、あいまいな表現にとどめています。
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呼吸の一部分を感知する受容体というのが、呼吸を感じる大脳に行く前にあります。換気量(呼吸をどれぐらい吸ってどれぐらい吐くか)を調節している呼吸中枢には、中枢性化学受容体と末梢性化学受容体のふたつがあります。
病院で動脈血の採血をされると思いますが、これは動脈の酸素の圧、二酸化炭素の圧を測っています。
体の中で酸素を感知するのは、首のところにある頚動脈小体で、動脈の中の酸素の圧が下がってくると、ここが刺激され、それを大脳のほうに伝えます。また、二酸化炭素が溜まってくると、脳の一部であり頭の下のほうにある延髄が感知して、大脳に伝えます。
酸素の圧が下がってきたり二酸化炭素が溜まってきたりすると、「これは大変だ」と刺激が行き、「呼吸をもっとしなさい」と脳が命令を出します。この命令に対して肺がうまく動いてくれたら、たとえば、走っている時にもっと呼吸をしなさいと命令が出て、そのとおり肺が動いてくれたら、普通息切れはそう感じないものです。ところが、脳からの命令に対しうまく肺が動いてくれない、反対に、脳から命令が出ないのに肺が勝手に動く、そういうアンバランスなときに息切れを感じるということになります。
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呼吸困難感
息をしようとする努力と、どれくらい達成できたか、それがちょうどバランスが取れていると息切れを感じないし、一所懸命に努力しても達成感がないと息切れを感じ、このアンバランスが呼吸困難感を発生させると言われています。
呼吸困難感は、非常に個人差がありまして、いろんな数値みたいにいくつという風にきちんと決めることが出来ないのです。
ですから、私たちも診断をするときに、呼吸困難の分類(ヒュージョーンズ分類)や、ボルグスケールの息苦しさの10段階評価を使って表現してもらいます。
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2)呼吸とは?
鼻や口から空気を吸い込んで、空気中の酸素を肺から血液中に取りこんで、体内の細胞へ巡り、エネルギー源になる。その後細胞で産生された二酸化炭素が血流にのって肺へ戻り、鼻や口から出る、この一連の作動を呼吸といいます。
私たちが生きていくためには必ずエネルギーが必要ですので、そのために呼吸は大変重要で、呼吸が止まってしまうと、エネルギーが産生できなくなって死んでしまう、ということになります。
肺と心臓は、非常に密接な関係にあります。人の体には右と左に肺があり、その間に心臓があります。鼻や口から空気を取り込んで、肺の中に流れている血液に酸素を取り入れて、全身に酸素を運んでいく。酸素が使われて二酸化炭素が溜まった血液を心臓に戻して、それがまた肺にいくことで、その中から二酸化炭素を出して、血液をきれいにしていく。心臓と肺の関係というのは、このように非常に密接で、肺の働きがうまくいかなくなると酸素の圧が低くなり、肺の血管が次第に狭く、硬くなってしまう。そのため心臓は肺に血液を送ろうと頑張って働く⇒ついに心臓が弱ってしまう(肺性心、右心不全)ということになります。
ですから、逆に心臓が悪いと呼吸もうまくできないといえます。患者さんを診ていると、その関係が一番わかるのは、息が苦しくなって酸素が低くなると、下肢がむくんできたり、おしっこがでにくくなってきたりします。一般的に下肢が腫れてくると、心不全といいますが、それは心臓がもともと悪くて心不全になるというよりも、肺でうまく呼吸ができないので血液の中の酸素が不足して、そのために心臓に負担をかけて心不全になっている。このことは心臓と肺の関係を非常によく現しているといえます。
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酸素と二酸化炭素とのバランス
下図は、エネルギーとして使われる酸素と、老廃物の二酸化炭素とのバランスを示しています。
歯車がいくつかありますけれども、それぞれきれいに同じような調子で回っていると、呼吸がうまくいっているということです。VO2というのは、1分間にどれぐらい酸素を使うか、という意味です。だいたい1分間に250mlぐらいの酸素を取り込んで、それを全部エネルギーとして使ってしまうと、二酸化炭素が1分間に200 mlぐらい出来ます。肺が一番上の歯車、2番目が心臓から血管、3番目が体の中のいろんな組織を現しています。このどこかの歯車の調子が狂ってしまうと、うまく回らなくなるので、呼吸に障害が出てくる、ということになります。
酸素の滝、二酸化炭素の流れ
詳しくは、こちらもご参照ください。(71号P4〜P5)
私たちは1気圧の空気のなかで生活しています。1気圧は760mHgという圧ですが、その空気のなかに酸素は普通21%含まれていますから、掛け算すると150mHgぐらいの圧の酸素を吸うわけです。しかし肺の中に入っていくと100mHgぐらいに下がります。なぜ下がるかというと、肺の中では水蒸気があるので、その分だけ圧が下がって、肺胞では100ちょっとです。病院で動脈血を測ると90から100ぐらいの値で、90以上あれば正常です。呼吸不全で酸素を吸っている方は、60以上あれば心臓に負担がかからないといえます。小さい毛細血管では40〜50に下がります。私たちはこの酸素をうまく利用してエネルギーにして生活しているといえます。
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3)呼吸不全について
呼吸不全とは、いろんな臓器とか器官、組織あるいは細胞レベルに要求される代謝需要(エネルギー需要)に呼吸が対応できない状態を言います。結果として、血液ガスの異常、特に酸素分圧の低下が重視されています。動脈のなかの酸素の圧が肺や心臓が悪いことによって、下がってきている状態で、定義としては、酸素の圧(PaO2)が60未満になることを呼吸不全といいます。
呼吸不全には2つのタイプがあり、二酸化炭素が正常なT型と二酸化炭素が溜まってくるU型があります。
酸素の圧が下がった状態が1ヵ月以上持続すると慢性呼吸不全といい、酸素を吸っていらっしゃる方がこれに当たります。1 ヵ月未満だと急性呼吸不全といい、普段健康な人でも重症の肺炎を起こしたりすると、呼吸不全になります。但し、治療によって元に戻りますので、慢性ではなくて急性の呼吸不全といいます。
酸素圧低下の病態
酸素がどうして下がるかというと、3つぐらい条件があります。図でみると、上の丸い部分が肺、下を血流と考えてください。肺は空気が行ったり来たりして、酸素を取り入れて二酸化炭素を出すということをしています。
【上図の左側 1)の図:シャント】上の血流は肺に接しているけれども、下の血流は肺に接していない。そうすると、どういうことが起こるかというと、上からは酸素を取り込むことが出来るが、下の血流からは酸素を取り込むことが出来ない。その血流が一緒になり混ざるので、酸素の圧が下がります。こういう状態を専門的には、シャントといいます。
【中央の2)の図:換気血流比不均等】肺胞の大きさと血流の大きさが合っていない時、大きな肺胞に小さな血流、小さな肺胞に大きな血流。こういうときも酸素が少なかったり、充分取り込めなかったりということが起こってきて、酸素圧が低下する理由になります。
【一番右の3)の図:拡散障害】肺胞と血流の間で酸素と二酸化炭素が行ったり来たりするんですが、その間(間質)が厚くなっていたり、硬くなっていたりすると、酸素が取り込みにくくなるので、酸素が低下して呼吸不全となります。
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二酸化炭素圧増加の病態
二酸化炭素が溜まってくるタイプ(2型)とそうでないタイプ(1型)があると言いましたが、増加の理由は単純で、どれぐらい呼吸をしているか、1分間に何リットルぐらいかの換気量に逆比例します。ですから、1分間に取り込む空気の量が少なければ二酸化炭素の量は上がってくるし、多ければ下がってくる。
だいたい正常の値は40〜45ぐらいで、ある程度までの呼吸でそれ以上は激しく呼吸できない。但し、過換気症候群になると、ストップ機構がなくなってしまい、換気量が多くなりすぎて、逆に二酸化炭素が非常に少なくなった状態になり、血液の性状がアルカリ性に傾いてしまう、そういう病気もあります。だいたい呼吸不全の患者さんの場合は、換気量が少なくなるので、二酸化炭素は増えてくる病態になるのが一般的です。
呼吸不全の原因疾患― 病態別に
どういう病気で呼吸不全が起こるか、ですが、酸素が下がる理由は先ほど3つ挙げましたが、実はもうひとつ、1は肺の病気以外の原因が入っています。
頭の病気、脳卒中とか薬物中毒で呼吸の中枢に障害がおこると、うまく呼吸ができなくなり、呼吸不全になります。肺を動かしているのは、肺自身が膨らんだり縮んだりしているわけではなく、肺の下にある横隔膜という筋肉が収縮したり弛緩したりして、肺が膨らんだり縮んだりしているわけです。
もうひとつは、肋骨の間にある骨格筋が縮んだり伸びたりしているわけです。ですから、その筋肉と神経の病気でも呼吸不全は起こってきます。代表的なのは、神経筋疾患といって、ギランバレー症候群とか重症筋無力症などでも起こります。横隔膜の損傷も呼吸不全の原因となります。
主に肺が原因になるのが、2〜4の病気です。COPDというのは、昔は慢性肺気腫と慢性気管支炎というふうに分かれていましたが、それを一緒にして、新しくできた病名です。
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4)COPDとは
日本語では慢性閉塞性肺疾患。英語では(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)慢性:期間がずっと続く、閉塞性:気管が狭く、息を吐き出しにくくなっている肺の病気、肺への空気の出し入れが慢性的に悪くなって、ゆっくりと悪化していく病気です。今までは慢性気管支炎とか肺気腫と言われてきたもので、有害粒子、主にタバコによる異常な気道の炎症反応と関係しています。症状としては、咳や痰が続いたり、階段の上り下りなどに息切れを感じたり…そういう病気です。日本では9割以上の方が喫煙者です。逆にいうと、タバコを吸っていないとこの病気にはかからない。アメリカなどでは遺伝子的にこの病気になるひとがいますが、日本ではその遺伝子をもっているひとが非常にまれであるということで、別名:たばこ病といわれています。
スパイロメトリー検査
慢性閉塞性肺疾患の閉塞性とは、息を勢いよく吐きだせなくなることで、スパイロメトリー検査をすることで判ります。努力性肺活量を測る検査です。胸いっぱい吸い込んで勢いよくフ〜ッと吐くと、下のようなグラフが描けます。
その吸い込んだ量(努力肺活量)から初めの1秒間にどれだけ吐けたかを、1秒量といい、その1秒量を肺活量で割った値(%)を1秒率といい、肺活量のなかで初めの1秒間にどれぐらい勢いよく吐けるかを表しています。この1秒率が70%未満をCOPDといいます。(正確には、気管支拡張剤を吸入したあとに検査します。)
このグラフの方の場合、1秒量:2.11?、肺活量:4.19?、ですから、1秒率は50.4%になり、70%未満であるのでCOPDと診断されます。中高年の方で喫煙経験があり、咳、痰が多く、階段を登ると息切れが激しいという自覚症状がある方はCOPDが疑われるので受診してください。
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COPDの死亡率と推定患者数
COPDによる死亡率のアメリカのデータですが、1965年から1998年までに163%という上昇率です。それで、1990年には6番目だったCOPDによる死因が、2020年には虚血性心疾患、脳血管障害に次いで3番目に上がってくるのではないかと予想されています。日本での2001年の疫学調査では、40歳以上の男女の推定で500万人以上がCOPDに罹っているとみられますが、実際にCOPDの診断で治療を受けている人は、1999年現在で21万人に過ぎないということで、今は氷山の一角であろうと思われ、これから増えてくる病気だろうという警告が出されています。
COPDの危険因子
原因の8割〜9割を占めるのが喫煙です。もうひとつは高齢化です。タバコの消費量の増加を追いかけるようにして、肺がんやCOPDの死亡率が上がってきていて、タバコの危険因子が非常に大きいということを示しています。
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COPDの人の肺の状態
まず色が違います。黒っぽくなっていかにも汚れています。レントゲンでみると、肺は過膨張になり、心臓が両肺から押されて小さくなり(滴状心)、横隔膜は普通はドーム状ですが、肺に上から押されて平坦になっています。CTでは、肺の組織が少ないので、空気で全体的には黒っぽく見えます。
慢性肺気腫…肺の中が蜂の巣みたいにスカスカになり、肺胞の壁がどんどん破壊されて、呼吸をする面積がなくなっていきます。また、弾力感がなく膨れすぎの状態になります。咳や痰、労作時の息切れが起こってきます。
慢性気管支炎…気管支(空気の通り道)の粘膜が肥厚して狭くなり、痰の元になる粘液腺が大きくなって、いっぱいの痰で狭い気管支が非常に狭くなり、空気が通りにくくなります。咳や痰が3ヶ月以上続くという定義です。
この「慢性肺気腫」と「慢性気管支炎」を合わせて、現在はCOPDと呼んでいます。
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COPDの進行段階
正常なヒトの1秒量を100%とすると、COPDの人はタバコを吸うことで1秒量がどんどん下がっていきます。しかし、60%ぐらいまではほとんど自覚症状はありません。ところが、続けて吸い続けて40~60%ぐらいになると、咳や痰が出てきて、動いたときにちょっと息苦しいという症状になります。それでもまだ吸い続けて20〜40%ぐらいに下がると、じっとしていてもきつくなるという進み方をします。
COPDの最大の治療は禁煙!
禁煙によって、500万人いるCOPDの方の症状が進むことがなくなるので、一番重要な治療法です。次頁のグラフは、喫煙による肺機能の低下を表したグラフで、縦軸が1秒量、横軸が年齢です。年齢とともに若干下がりはしますが、健常な人は80歳ぐらいで75%ぐらいになるのに比べて、この例ではすでに40歳で75%まで下がっていて、このまま下がり続けます。禁煙が大事なのは、たとえば45歳で中止するとします。すると、それからは減る率が健康な人と同じカーブになるということです。ですから、いつからでも禁煙の効果はそれなりにあるということです。皆さんの周りに喫煙している人がいたら、呼吸器だけではなく他の病気にも非常な害をもたらしますので、タバコはやめるように勧めてください。
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COPDの特徴:エアートラッピング
息を吸うことはできますが、勢いよく吐くことができません。ゆっくり吐こうとしても、気管支が狭窄してつぶれてしまって息が吐けない。これを専門的にはエアートラッピング(空気のとらえ込み)といい、COPDはこれを特徴とする病気です。息を吐くときに健康な人は肺胞が縮むことが出来るんですが、COPDでは、肺胞の壁が破壊されている、気管支の支持組織が断裂していて虚脱しやすい、もともと気管支が狭い、などの理由で吐けないという状態が起こってきます。これも息切れを起こす要因です。
COPD患者にみられる悪循環サイクル
息が吐けなくて空気のとらえ込みが起こってくる⇒吐く量より吸う量が多いので空気がたまってきて肺が過膨張になる⇒息切れが激しくなり不安感が増し、頻呼吸になり、空気のとらえ込みが更に進む。また、過膨張から活動性低下⇒体調・健康障害⇒換気要求上昇⇒空気のとらえ込みが更に進むという二つの悪循環サイクルです。
その結果、きついから動きたくない⇒家でじっとしている⇒下肢の筋肉が萎縮してくる⇒寝たきりになる恐れがあります。元々は肺の病気であっても、最終的には全身病になりますから、この悪循環を断ち切らないといけません。
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「GOLD」COPD診断と治療のためのガイドライン
COPDは、2020年には世界で5番目ぐらいの重要な疾患になるのではないかと考えられCOPDに関心が高くなり、アメリカの心肺血液研究所とWHOが中心になって世界的な治療指針「GOLD」が作成されました。これは1年ごとにバージョンアップされています。日本では、それを日本呼吸器学会が日本の実情に合わせて治療のガイドラインを作っています。それは1秒量による重症度で0期から4期までに分けて、治療方法を示しています。
0期…スパイロメトリー正常、咳や痰⇒禁煙、インフルエンザワクチンの接種
1期…1秒量が80%以上⇒+必要に応じ短時間作用型気管支拡張薬(サルタノール、メプチンなどの吸入薬など)
2期…50%〜80%未満⇒+呼吸リハビリテーション、長時間型気管支拡張剤の定期的使用(スピリーバ、セレベントなどの吸入薬やホクナリンテープなど)
3期…30〜50%未満⇒+吸入ステロイド剤の考慮(フルタイド、パルミコート、キュバールなど)
4期…30%未満、50%未満で慢性呼吸不全、右心不全合併⇒+長期酸素療法
(2006年の「GOLD」では0期は無くなっている。1秒率が70%以上の人はCOPDではない。)
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5)予防接種
インフルエンザワクチン予防接種
インフルエンザの年齢としての罹患率と死亡率では、子供は圧倒的にかかる率が多く、年齢が上がってくると少なくなります。ところが死亡率をみると、こどもの死亡率は非常に低くて、70歳ぐらいからボンと上がっています。高齢者のインフルエンザの死亡率が非常に高いのです。ましてCOPDという基礎疾患があれば死亡率はもっと上がりますので、インフルエンザワクチンは非常に効果があります。もしワクチンを受けていたら、インフルエンザで亡くなる高齢者1000人のうち800人は助かったのではないかと言われています。
入院も、もしワクチンを受けていたら、500人は入院しなくてよかったのではないか、というデータが出ています。
肺炎球菌ワクチン予防接種
肺炎は75歳以上から急激に増えていて、肺炎の罹患率も高齢者に非常に多いです。肺炎球菌ワクチンというのも最近出てきまして、肺炎を起こす1/3ぐらいは肺炎球菌で起こっていると言われていますが、そのワクチンを打つことで肺炎球菌による肺炎にかかる率を下げることが出来ます。
肺炎球菌ワクチンを打っていない人が肺炎にかかり入院する回数が1年間に100人につき46回、打っていた場合23回に減って、50%の有効性です。また、インフルエンザと肺炎球菌の両方のワクチンを打っていたら、入院のリスクは63%軽減され、死亡リスクは81%軽減できたということで、ワクチンの効果はあり、インフルエンザワクチンとの相乗効果もあるとわかります。
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6)酸素吸入の効果
呼吸不全の患者さんにとって、酸素吸入がどれだけ生命予後に影響するかという問題ですが、酸素吸入の時間は、全然吸わない人、12時間吸入15時間吸入、24時間通しての吸入で比べて、24時間吸入の方が明らかに長生きをしています。この統計は、動脈血酸素分圧55未満の方の場合ですが、在宅酸素療法の効果が確かめられたということです。但し55トール以上の方に対する酸素の効果については、今のところ判っていません。
リハビリ中の酸素吸入効果
トレーニング中の酸素吸入により、どれだけトレーニング効果を高めるかですが、どちらもトレーニングをすると運動の持続時間は延びているんですが、酸素を吸入したほうが、トレーニング強度が明らかに高くなります。 
HOTの受け止め方とHOT開始後の心理的QOLの悪化
これは福岡病院のリハビリ棟で看護師さんが纏められたデータですが、酸素療法を[平気だという群]と[いやだな、恥ずかしいなと思っている群]に分けて、食欲、睡眠、気力、きつさなどが悪化した比率を出しています。これを見ると明らかに酸素を恥ずかしいと思っていない人のほうが、悪化する率が少ないということが判ります。(※ホット71号P11を参照してください。)酸素療法の心理的な受け止め方が、悪化に影響しているのではないか、ということです。
「こころも体も良い状態を保っていきましょう」
最後に、心療内科のお話ですが、心と体は非常に結びついていて、気持ちが落ち込んでいる時は、自分のことをケアしていくことが困難になります。例えば、夜眠れない、朝早く覚醒してしまう「うつ」のような症状がある方は、主治医と相談されて、一度心療内科を受診することも治療法になるのではないかと思います。肺の機能はそう悪くないのに「非常にきつい」と感じる方がいらっしゃいました。うちの病院には心療内科もありますから、心理面接や薬で、気分の落ち込みもよくなり、体調もよくなっていらっしゃいます。
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★質問から・・
Q1【非定型抗酸菌症について】
A1:結核菌でない抗酸菌症への質問です。結核菌は抗酸菌のグループに入るのですが、結核菌でない抗酸菌による非結核性抗酸菌症は、従来は非定型抗酸菌症と呼ばれていました。これらは本来結核菌と違い弱毒菌で、空気中にあっても罹らないのですが、なぜか最近増えてきています。結核は人から人に移りますので、排菌していたら必ず入院して治療する必要がありますが、この非結核性抗酸菌は人から人へは移らないと言われているので、入院する必要はない。但し、結核は8割から9割は薬がスパッと効くので、入院して治療すれば良くなる病気ですが、この非結核性抗酸菌症は入院しなくてもいいけれど、効く薬があまりない。
今言われている治療は、結核に準じた治療をするということで、結核の薬を2〜3種類、あと抗生物質を1種類で、3種類から4種類ぐらいの薬で治療していきます。この非結核性抗酸菌というのも、非常にたくさん種類がありまして、そのなかで菌の種類によっては結核の薬が効く病気もありますので、効く病気かどうかというのを、主治医に聞かれたら良いと思います。
質問者は肺の影がちょっと進んでいきている、空洞も出来てきているということなので、おそらく抗酸菌も排菌されていると思います。急激に進む病気ではなくて、しつこく10年とか20年とかいう単位で進んでくる病気で、最終的には呼吸不全になっていく病気ではありますので、治療はされた方がいいと思います。ただ、結核に準じた治療で3剤から4剤飲まなくちゃいけないので、それなりに副作用もありますので、主治医の先生と充分ご相談されながら飲まれるのがいいと思います。私たちも非常に治療に苦慮している病気です。
昔は結核になった人が高齢になってこの病気になると言われていたのですが、最近はなぜか30代40代の健康な人にも起こってきていて、圧倒的に女性が多いのです。水とか土壌とか台所とかに関係があるかもしれませんが、まだ判っていません。進んできているようなら、治療された方がいいと思います。
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Q2【酸素の量に関して】
A2:動脈の酸素の圧が60未満になると、心臓から出ている肺の血管が収縮して血管の抵抗が高くなり、狭い中を流すには力がいります。それで心臓がへばってきて心不全になり脚にむくみがきたりします。肺の血管の収縮を防ぐために酸素を上げて血管を広げると心臓の負担が減るということになります。ですから、動脈血酸素分圧は60以上にするということですが、指につけたり挟んだりして測る値は、圧ではなくて飽和度(%)ですから、飽和度の90が動脈血の酸素分圧では60ぐらいに相当するので、飽和度90以上になるようにします。安静時に1?吸って90以上あっても歩く時には下がることがおおいので、動きに合わせて90以上になるように酸素の量を決めていく必要があります。
但し、二酸化炭素が溜まりやすいタイプ(2型)の方は、二酸化炭素が上がるとCO2ナルコーシスといって意識障害が起こります。これは、酸素が低いと頭の中で「酸素をあげなくちゃ…」と一生懸命呼吸をして、二酸化炭素も減らそうとする機構が働いていますが、酸素を上げ過ぎると、中枢からの「一生懸命呼吸しよう!」という命令が出ず、二酸化炭素が溜まってくるという現象が起こるので、酸素の量を上げすぎてもいけない。ですから、動く時、寝ている時それぞれ何?位吸う方がいいか、主治医の先生にお尋ね下さい。
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